邦画と洋画は「持ちつ持たれつ」?

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映画ビジネスにかかわるプロフェッショナルの方々に映画市場の現状と未来を考える素材を提供する目的で、年末に実施した調査をもとに「GEM映画白書2015」においては、「映画館で映画を見るということはどういうことか」を検証している。
今回のコラムでは、この視点の前提ともいえる、そもそも映画興行データからどのような市場の構造変化が浮かび上がるかを整理したい。データは日本映画製作者連盟発表資料・データを用いた。

総興行収入、邦画、洋画はそれぞれどのような動きだったのか

毎年発表される年間興行収入の2009年から2014年の推移と前年比の増減額を整理すると以下のとおり。
興行収入が大きく落ち込んだ2011年移行、年々微増・横ばいで推移している。2014年は、2200億を超えた2010年ほどではないが、2009年と同程度まで回復した。
興行収入の2009年以降2014年までの前年比増減額

図1:興行収入の2009年以降2014年までの前年比増減額
(資料:日本映画製作者連盟発表資料・データ)

邦画と洋画は「持ちつ持たれつ」?

同様に、邦画、洋画それぞれの興行収入の推移を整理すると以下のとおり。
邦画・洋画別興行収入の2009年以降2014年までの前年比増減額

図2:邦画・洋画別興行収入の2009年以降2014年までの前年比増減額
(資料:日本映画製作者連盟発表資料・データ)

邦画は比較的安定的に推移していて、洋画の方が前年比の増減が大きい。
また、それぞれの年ごとの邦画、洋画の動きを比較すると、別のことが見えてくる。いずれも大きく落ち込んだ2011年を別として、邦画が横ばいあるいは減少している時は、洋画が増えていて(2010年、2013年、2014年)、逆に洋画が落ち込んだ時は、邦画が補うように増加している(2012年)。
もちろん、邦画、洋画の増減は大きなタイトルがその年にどの程度おおきな興行収入となったのか、あるいは、数としてどの程度集中したか次第ということにも寄っている。しかし、過去5年間の動きをみると、邦画と洋画は「持ちつ持たれつ」で推移しているようにも見える。

鑑賞者を映画館に向かわせるドライバーは何か

「持ちつ持たれつ」の構造が本当にあるかどうかは別として、邦画も、洋画も増加している年もあるが、大きく減少している年もある。
いずれも増えることがベストと考えた時、「邦画」「洋画」という区切りは映画興行の議論における軸のひとつではあるが、鑑賞者にとって、どのように、どの程度、意味があるのか、ということも気になる。
鑑賞者は個々の映画を「洋画」だから、「邦画」だから、観るのではないだろう。たしかに、顧客調査においては、「洋画」を観たと答える人、「邦画」を観たと答える人は、年齢や年間鑑賞頻度は異なる。
しかし、本質的には、「洋画を観る人が増える」のではなく、鑑賞者に選ばれた作品として「洋画」が多くなれば結果的に洋画の興行収入が増える。邦画も同じ。
映画館で映画を観る人とその本数を増やすためには、それぞれの生活の中で映画館で映画を観ること自体がどのような位置づけを持ち、またその特定の作品はどのように選ばれるのかを洗い出すことがヒントとなると考える。

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