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クラウドファンディングは本当に映画を救うのか


文責:梅津文

「クラウドファンディング」は、米国や日本のインデペンデント映画製作者をはじめ、クリエーターやベンチャーをサポートするプラットフォームとして注目されています。

クラウドファンディングは、「インターネットを使って、小額を多数の支援者から募り、アート、音楽、映画などのクリエイティブなプロジェクトを実現する、という画期的な資金調達とサポーター集めの方法です。一般の人々が気軽に参加できるという点で、文化支援における民主的なプロセスであり、欧米では、ここ2年ほどでかなり広まってきました。」(motion galleryにおける「ハーブ&ドロシー」佐々木監督の説明より。

映画業界の中でもクラウドファンディングは注目されつつあります。第25回東京国際映画祭期間中の10月26日に開催された文化庁映画週間のシンポジウム-MOVIE CAMPUS‐に「クラウドファンディングは本当に映画を救うのか?」というお題のもと登壇しました。

シンポジウムの具体的な内容については、文化庁映画週間ウェブサイトなどでアップされる予定ですが、ここでは、私の方から当日発表したインターネットアンケート結果に基づく顧客側、支援側である映画鑑賞者の現状につき記します。

◆映画におけるクラウドファンディング◆
前述の通り、クラウドファンディングは「インターネットを使って、小額を多数の支援者から募り、アート、音楽、映画などのクリエイティブなプロジェクトを実現する、という画期的な資金調達とサポーター集めの方法」です。

クラウドファンディングは、資金提供者が何を見返りに資金を提供するのかによって3つのパターンがあります。リターンのない「寄付型」、プロジェクト成功時に金銭が支払われる「投資型」の他に、プロジェクトが提供する何らかの権利や物品を購入することで支援を行う「購入型」です。このうち、法制度などの状況から、購入型のクラウドファンディングが一般的です。(wikipediaより)

これを映画に当てはめると、下記の通りとなり、黄色く塗った部分がクラウドファンディングによってもたらされる新たな「資金調達」の形です。

「購入型」では、映画観賞チケット以外に、特典グッズ、撮影現場や製作者との交流、プレミア上映会への参加、エンドロールにおけるクレジットなどの「+α」のサービスに対して「対価を得る」ことによって資金を集める場合が一般的です。

◆事業者にとっての3つのハードル◆
では、この手法を映画製作者が活用する上でのハードルは何か。現段階では主に以下の三つが挙げられると考えます。

① コンセプト・プラットフォームともまだ浸透度が低いこと
②「支援者」とコミュニケートする方法はインターネット上のソーシャルマーケティングであること
③ ニーズのある事業者と映画ファンニーズのマッチングの難しさ

以下、詳しく見ていきます。

①浸透度の低さ
コンセプトとしてのクラウドファンディングはまだまだ一般には浸透しておらず、「まだ商売になっていない」コンセプトといえます。
下記は全国に住む15から69歳の男女のうち、映画館で過去一年間に一本以上映画を見たと答えた方に向けて10月23日に実施したインターネットアンケート(サンプル数415)の結果から、ほかのキーワードとと比較してどの程度浸透しているのかを比べたものです。

「クラウドファンディング」と聞いて「知っている」と答える人の割合は17%程度であり、「ほとんどの人が知らない」と言えます。
ただし、コンセプトを知らなくても行動として行っている場合はあると考えられます。”GROUPON”などで有名となった「フラッシュマーケティング」も同程度の認知度です。しかし、プラットフォームとなるウェブサービスの浸透度は、クラウドファンディングもまだまだ低いのが現状です。
以下は、他のサービスと比べたときに、クラウドファンディングのプラットフォームとなるウェブサービスの浸透度を測ったものです。

クラウドファンディング関連のウェブサービスはどれもコンセプトと同じぐらいの浸透度合いです。すでに一般化したインターネットショッピングやモバイルゲームサービスには及ばないのはもちろんですが、コンセプトの浸透度合いが同程度だったフラッシュマーケティングのGROUPONと比べても大分ハンデがありそうです。

②インターネット上のソーシャルマーケティングというハードル

一般の方から支援を募る、ということ自体は何も新しくない考え方ですが、いまとりあげている「クラウドファンディング」はインターネットを活用し、またそれによって大きく可能性が広がったものです。当然ながら、クラウドファンディングで一般の方にリーチして資金を集めると言うことはインターネットマーケティング、特にフェイスブックやツイッターを活用したソーシャルマーケティングが主たる活動になります。

映画製作者にとってインターネット、ソーシャルマーケティングはどういう位置づけなのか。映画の宣伝におけるネットの位置づけをみるために、映画鑑賞者が最近公開された映画を、どのような情報入手経路で認知したのか、のデータをみてみます。

こうしてみると、大規模公開映画はテレビがメイン、続いて劇場です。小規模公開映画では予算の関係からテレビの割合は低くなり、相対的に劇場が強くなります。PC/インターネット小計の中身は作品HP/オフィシャルサイト、映画情報サイト、映画に関するニュース記事、ネット広告・タイアップ・メーリングリストです。一方、「SNS関連小計」はSNS (Facebook,mixi,モバゲー,アメーバピグなど)、ブログ・掲示板(アメブロ、ココログ、2ちゃんねるなど)、ミニブログ (Twitter,LINE,アメーバなうなど)ですが、非常に小さい位置づけです。

このデータが意味することは、映画ファンにとってみれば映画の情報源といえば劇場でみる予告編やポスター、テレビ、ということであり、裏を返すと、映画の宣伝側もここにお金も労力もフォーカスしてきたであろうということです。インターネットマーケティング、とくにソーシャルマーケティングには注力してきてないと言えます。クラウドファンディングだ、ということでフェイスブックやツイッターをメインツールに、となっても助けが必要な制作者が多いことが考えられます。

③マッチングの難しさ
では、インターネットでリーチできたとして、支援を募るプロジェクトと支援したい映画ファンはめでたく結ばれるのか。
ここにもハードルがありそうです。以下に示した図の左側のグラフは、昨年のデータをもとに興行収入及び公開本数について、大中規模の配給会社映画と小規模配給会社の占める割合を示したものです。図の右側のグラフは、年間鑑賞本数別に、映画鑑賞者の構成比を示したものです。

現在、映画製作者でクラウドファンディングに興味があるのは、大きな配給会社よりはインディペンデントの小規模映画のプロデューサーが多いとみられています。こういった小規模な映画は興行収入ベースでは全体の6%を占めるに過ぎないのですが、本数ベースでは全体の8割近くを占めています。裏を返すと、公開本数ベースでは2割程度の大手配給会社作品が市場の94%を占めています。一般的に、20%のシェアの人が業績・収入の80%を占める「ニッパチの法則」は有名ですが、それ以上に大規模作品に収入が集中している市場です。

一方、そういったインディペンデント作品含めて映画を見る可能性の高いヘビーユーザーがどのぐらいいるのかというと、月一本以上のペースで見る人は、映画鑑賞者人口の10%に満たない状態です。映画鑑賞者人口は4000万人とも2,3000万人ともいわれてますが、いずれにしても「月一ペースで見る映画ヘビーユーザー」は2‐300万人程度と考えられます。

小規模公開映画は膨大な数が公開される上に、宣伝費も限られていて認知もされにくいです。仮に認知されても、テイストも多種多様でそれぞれニッチな小さい市場性をもっている小規模映画が、全体の10%に満たない映画ヘビーユーザーにとって見たい、応援したい一本となるかどうか、ハードルが高そうです。そして前述の通り、クラウドファンディングの浸透度も高くはないのです。

◆しかし、クラウドファンディングにポテンシャルはありそう◆

このハードルが乗り越えられた先にクラウドファンディングの価値はあるのでしょうか。映画鑑賞者に訴求するポテンシャルはありそうです。

以下の図の通り、クラウドファンディングに関して興味のある分野を選んでもらったところ、映像・映画が19項目中2位となっています。また、クラウドファンディングについて興味がない、知らないと答えた人に対して、改めてコンセプト説明をしたところ、興味がわいたと答える人の数は、全体の3割以上となり、「クラウドファンディング興味ポテンシャル層」の割合は全体の4割程度とと考えられます。

◆クラウドファンディングの成長シナリオ◆

ポテンシャルはあると考えられるクラウドファンディングの成長シナリオとはどのようなものでしょうか。
現在は、Motion Galleryで562万円を集めたキアロスタミ監督の”Like someone in love”や、現在同じプラットフォームで支援を募っている”ハーブ&ドロシー50×50”などの先駆事例が市場を萌芽させた段階ですが、このあと大きく成長するとしたら、コンセプト・プラットフォームの浸透度と映画マーケティングの現状から考えて、以下のような成長シナリオが考えられます。

インターネットを利用するということは国境がないということであり、各国でニッチながら世界中で資金を調達できるファンがそこそこの数存在する、グローバルに競争力のあるコンテンツはすぐにでも海外のキックスターターなどのプラットフォームを生かしていけるでしょう。
日本の場合は、マスに訴求できる娯楽映画(あるいは映画以外のマスコンテンツでもいい)がクラウドファンディングを利用することで認知度をあげていく必要があります。その体験自体のファンもその中から増えていきます。そうしてプラットフォームが大きくなって初めて、小規模公開映画をはじめとするアート映画を支える母体となれるのではないでしょうか。

プラットフォームを育てるのはニッチなコンテンツではなく、より多くの人の心をとらえるものです。女性をメインターゲットとしたクラウドファンディングサイトGREEN GIRLの沼田社長の講演を聞いていた時、クラウドファンディングが今後大きくなるかどうかは、夢のあるプロジェクトがクラウドファンディングで資金を集め、そして成功できるかにかかっている、とおっしゃっていました。たとえば、「富士山を世界遺産にしよう」プロジェクトなど、とにかくほとんどの人が賛同してワクワクできるものです。

実際、クラウドファンディングで支援したいと考える映画はどのようなものか?とアンケートを取ったところ(自由回答)、もちろん、アート支援をあげる人もいるのですが、娯楽映画をあげる人の方が多かったです。
下記は実際の回答内容です。
<アート支援>
・お気に入りの監督作。エンタメ系でなく、配給元からなかなかGOが出にくい作品 / ・必要な、臨まれる映画社会を継続、発展させるには、協力できる規範での支援作りには、多いに賛同している。
<パブリックテーマ>
・災害関連、地球環境関連、経済政策関連 /・世界平和に関連した
<娯楽作品>
・バイオハザード系とか / ・SFファンタジー / ・アドベンチャー、ファンタジーなど大作。 / ・ファンタジー / ・面白い映画
<その他>
・単に娯楽に走るだけではなく、かといって深刻ではないが、筋の通っている映画 / ・メンタルヒーロー / ・推理もの / ・歴史もの 

また、当然といえば当然なのですが、金銭提供などで「支援」をする前に、そのコンテンツを認知していなければいけません。この意味でも、規模の大きい作品の方がメリットはあります。

以下は劇場公開が近い映画、来年以降に公開される映画ともに、クラウドファンディングで資金集めをした映画を含めてランダムにタイトルの認知の有無と、「制作・宣伝活動を、金銭提供によって(鑑賞チケット/DVD購入以外の方法で)支援したい」と考えたものを選択してもらい、支援度を測ったものです。

こうしてみると結局のところ何人がその映画を支援したいと考えるのか?という「支援度」はおおむね作品の認知度に比例していることが伺えます。

◆大規模公開作品にとっては「宣伝ツールとしてのクラウドファンディング」◆
上記の通り、大規模公開映画を「支援したい」と思う人が多いですが、そもそもこういった映画は支援の必要性はありません。
しかし必ずしも「クラウドファンディング=困った人の支援」ではないのです。メジャー配給映画の宣伝にクラウドファンディングプラットフォームを使った事例はあります。例えばフランスのPeople for Cinemaがそれです。

これは、「購入型」ではなく、マイクロ投資型のクラウドファンディングプラットフォームですが、インディー映画に限らず、「パイレーツ・オブ・カリビアン」などのメジャー配給作品の広告宣伝費を集めた実績があります。これは資金が足りないからではなく、映画ファンコミュニティに対して映画マーケティングプロセスに関与する機会を提供する、ファンサービスに近いものです。映画製作者側の期待は、この人たちが映画に対してオーナーシップを感じ、口コミマーケティングの中心となっていくことです。

プラットフォーム側は、こうした大規模映画の宣伝メリットを打ち出していくことで、コンテンツとプラットフォームの話題性を高め、クラウドファンディングのプラットフォームの成長を狙っていくことができそうです。

◆そして、今回のシンポジウムのお題「クラウドファンディングは映画を「救う」のか」への答え◆
私は登壇をオファーされた時からその答えはNOだと考えていました。しかし、議論する価値は非常に高いテーマだと考え参加させて頂きました。

クラウドファンディングが映画を「救う」ことはできないと思います。映画を救うことができるのはクリエーターのパッションと観客の感動だけと考えるからです。しかし、映画はクラウドファンディングというツールを有効活用する余地は大いにあると思います。

また前述の通り、「クラウドファンディング=困った人へ支援」ではないということも大事なポイントと考えます。「寄付」の延長ととらえる限り、広がりのポテンシャルは限定的です。むしろ、インターネットで行う消費行動と位置づけられないか。新しい製作者と映画ファンのつながり方を可能にする「新しい楽しみ」と。たとえば下記は最近2カ月以内に行ったことを19個の選択肢の中から選んでもらったものですが、「寄付」行動のパイは小さいです。

より関与したいと考えるコアなファンに対してその楽しみの機会を幅広く提供しているという意味でクラウドファンディングの参考になるのはタレントのファンクラブ運営ではないでしょうか。コアファンがメンバーを応援したいという思いを実現する機会を与え、インターネットを味方にしたという意味ではAKB48のあり方もかなり参考になりそうです。

そもそも映画のファンはすごく多いですが、それに対して関与の仕方は、1800円で劇場でチケットを買う、もしかしたら600円ぐらいでパンフレットを買う、数千円でDVDも買う、ぐらいのものです。ものすごくそのコンテンツが好きな人、「もっとコンテンツにどっぷりつかれる、クリエーター、キャラクターと接することができるのであればもっとお金を払ってもいい」に対して、サービスを提供するという市場がないように思います。

私は映画「嫌われ松子の一生」を劇場でみたとき、映像の持つ力と俳優が演技を通してなし得ることに心底感動し、衝撃を受け、人生観というかキャリア目標が変わりました。だから友達を連れて映画館で5回みただけでなく、愛蔵版DVDを購入し、また友人への貸し出し用にも別途DVDを購入しただけでなく、機会あれば友人にDVDをプレゼントしていました。もちろんこの映画関連書籍や中島監督と主演の中谷美紀の関連DVDや書籍も購入しました。おそらく少なくとも3,4万円ぐらいお金使ったわけですが、それ以外の機会が与えられていたらそれはもちろん喜んでお金を払って参加していたと思うのです。

一方で、製作者がクラウドファンディングを利用するにあたって、ぶつかるであろうチャレンジはまだたくさんありそうです。映画ビジネスは基本的にはより「情け」のある事業者からの資金集めや取引が多いのであって、一般消費者と直接取引をすることはこれまでとは違う大変さを伴います。直接観客と生々しくつながること、これを試練ではなく喜びととらえられるか。また、「創る」段階から観客を巻き込むことと作家性との緊張関係など、考えるべきテーマはいくらでもありそうです。

しかし、クリエーターにとってもファンにとっても「嬉しいこと」が可能となるプラットフォームととらえたとき、「クラウドファンディング」の位置づけやポテンシャルも変わってくるのではないか、そして映画ビジネスにも新しい価値創造をもたらす可能性があると考えます。

ご参考
◆ハーブ&ドロシーでのクラウドファンディング秘話◆
佐々木監督のハーブ&ドロシーでのキックスターターを通じたクラウドファンディングの体験談については株式会社アーツアンドマーケティングさんのブログで詳しく知ることができます。
映画製作のために、映画をもう一つ作るぐらいの情熱が必要な手法だと感じました。プロジェクトXのような面白い体験記です。

【前編】『ハーブ&ドロシー』の佐々木監督に Kickstarter での資金調達の話を聞きました
―プロジェクトはどう進んでいったか―
http://artsmarketing.jp/archives/2118
【後編】『ハーブ&ドロシー』の佐々木監督に Kickstarter での資金調達の話を聞きました
―クラウド・ファンディングで資金調達するということ
http://artsmarketing.jp/archives/2145

「予告編はこちら」そして、「DVDはこちら」。未見の方は是非ご覧ください。

また、現在映画などの専門のクラウドファンディングサイト、Motion Galleryにて、続編の日本配給プロジェクトを続行中です。日本では最大の規模となる1000万円を目標に募集中。前作をご覧になった方はきっと続編の公開に「関わりたい」と思うでしょう。

◆シンポジウム概要◆
モデレータである関口裕子さん(株式会社アヴァンティ・プラス代表取締役)からクラウドファンディングのコンセプトや現状を説明頂き、「ハーブ&ドロシー」の佐々木 芽生監督や映画祭で上映もされた”Strutter”カート・ヴォス監督からは実際にアメリカのクラウドファンディングサイトであるキックスターターを使ってプロジェクト資金集めをした際のビビットな体験談が披露されました。

さらには映画などのクラウドファンディングサイトMotion Gallery主催の大高 健志さんからは現在佐々木監督が「ハーブ&ドロシー」の続編の日本公開のための支援を募っているMotion Galleryと今回のプロジェクトの説明があり、株式会社ブリッジヘッド代表取締役の小川 真司プロデューサーからは実際に資金調達をする側からどうクラウドファンディングが映るのかにつきお話がありました。

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