外配協主催「トーキョーシネマショー2015」パネルディスカッションのテーマから
先日、外配協主催のトーキョーシネマショーにおいて「映画ファンの育て方」というテーマでパネルディスカッションが行われた。
司会はフジテレビアナウンサーの笠井信輔氏、特別ゲスト・パネリストとしてタレントの千秋氏、牧和男イオンエンターテイメント代表取締役社長、高井英幸東宝株式会社相談役が登壇、様々な事例やアイデアが披露され、とても興味深い内容であった。
その中で、「映画ファンは育っているのか」という命題に対して、高井相談役が『スターウォーズ』『タイタニック』のようなエポックメイキングな映画が登場するたび、それを観ることをきっかけに映画が好きになる人が現れて、映画ファンは「育って」いるが、全体数として増えていないことを指摘。あわせて、こうした状況に対応する戦略を立てるうえで、そもそも映画館以外のDVD、放送、配信などの方法を含めて、日本ではいったいどの程度の人が映画を観ているのか正確にわからないことを課題として指摘した。
現状、POSデータなどですべてのウィンドウ・媒体でのべ鑑賞者数を正確に把握することは難しい。しかし大まかに推計はできる。その結果は以下のとおりである。
【推計方法】
2014年の間に何本映画を観たのかの回答結果を集計
(2014年12月27日実施インターネットアンケート、全国に住む男女15歳から69歳、回答者数10,024/GEM映画白書2015より)
*映画館
*DVD・ブルーレイ・ビデオ(レンタル・購入)
*配信(月額見放題、作品ごと課金、購入ダウンロード、無料)
*放送(有料チャンネル、無料チャンネル(地上波/BSなど))
*飛行機内の上映、その他
上記の数に2014年12月1日時点の15~69歳の人口(総務省統計局の人口推計)を乗じて、この結果に対して、映画館でののべ鑑賞本数/2014年の映画館での実動員数(映連統計より)の割合を補正係数として乗じた。
見方を変えると映画は全盛期と変わらない本数観られている?
上の図の値を合計すると10.6億となり、約11億である。
「映画、11億」という数字は聞き覚えのある数字で、映画館の最高動員数を記録し、映画の「全盛期」と言われた1958年の鑑賞動員数11.3億と近い。
映画館の動員数は現在約1.6億人(2014年)なので、そこだけを見れば7分の1になっている。
しかし1958年と比べると映画を観る方法は多様化している。それらをすべて足し上げると、全盛期と近い数字と推計された。当時の日本人口は9200万人で、現在の1.27億人より少ないため、一人当たりの鑑賞本数は12.3本から8.3本になっているが、映画が人に届いている回数を「面」でとらえた時に、日本において人が映画に触れる総本数は「全盛期」と変わっていないというとらえ方もできる。
さらには、同じアンケート結果において、それぞれのメディア形態で映画を観ている人が他にどのメディア形態で観ているのかクロス集計をとると、映画館以外のメディアで観ている人の半数以上はいずれも、映画館でも映画を観たと答えている。
映画館で映画を観ることが、映画を観る体験として最も特別感のある方法であることは間違いない。しかし、DVDで出合った作品の続編を映画館で観ようという人はいるだろうし、映画館でみた素晴らしい作品の監督の過去の作品をDVDで観てさらに映画が好きになるという人もいるだろう。そもそも「映画ファン」とは誰のことを言うのか、人によって考え方がいろいろであろうが、「映画が好き」な人は映画館でも他の方法でも映画を観ている。他のメディアによって映画を観られるようになったことは映画館から顧客を奪った側面もあるかもしれないが、現時点では映画に触れるきっかけとなり、映画館の動員数が下支えされているという側面もあるであろう。
いずれにしても、映画館で観る人の数を増やすことをゴールにするだけでなく、他のメディア含めた全体総数としての映画鑑賞者と本数を増やす結果として、映画館の動員数が増えるというアプローチもあるのではないか。