興行収入が30億を超えた『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』について、以前の投稿「進撃」の口コミ効果では他の作品と比較しつつ、”本作においては「悪評」の影響もある一方で「話題度」も高く、たとえ悪評であっても無視されるよりは宣伝になりうる事例”として分析した。
今週末、本作の続編となる『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』が公開されるので、続編鑑賞意向について、夏に公開された作品と比較したデータをピックアップする。
利用したデータ
◆比較対象作品:2015年5月29日~8月8日の間に100スクリーン以上で公開された27作品
◆鑑賞者アンケート:2015年8月15日実施、対象者全国に住む15~69歳男女のうち過去一年間に映画館で映画を一本以上みたと答えた人
◆Yahoo!映画、Filmarks、映画.comのレビュー投稿数と評価点実測日:2015年8月31日
レビュー点数も量もサイトごとに傾向は違う
まず、映画レビューサイトはそれぞれレビューの傾向や作品ごとの評価の点数、動員数に比した投稿数も傾向が異なる。
『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』もいずれのサイトでも評価点が低いが、特に低いのはYahoo!映画においてである。
また、今回の比較対象の27作品で見た時、Yahoo!映画、Filmarks、映画.comで比較すると、Yahoo!映画では点数の開きがほかのサイトより大きく、作品ごとの「賛」と「否」に開きがあった。
2015年8月31日時点各サイトでの点数
●Yahoo!映画/4.7~2.19の間で本作は2.19(27作品中27位)
●Filmarks/4.3~2.5の間で本作は3(27作品中24位)
●映画.com/4.3~2.2の間で本作は2.8(27作品中24位)
さらに、動員に比したレビュー投稿数についても傾向の違いがある。以下は横軸に公開週末土日の動員数を、縦軸に各サイト(Yahoo!映画、Filmarks, 映画.com)のレビュー投稿数を置いたもの。直線の近似線に対して、上にあれば相対的にそのサイトでのレビュー投稿数が多く、下にあれば少な目である。
『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』が動員数に対してレビュー数が極端に多いのはYahoo!映画においてであって、ほかのサイトでは傾向が異なる。個々の投稿をどのようにレビュー点数として集計するのかもサイトごとに異なる可能性もあるし、サイト内での作品のタイアップ企画の有無や広告出稿量も影響しているのかもしれない。そもそも、それぞれのサイトはユーザー数もユーザー属性も異なる。
このように、ネットの評価が……という表現よりも、どのサイトでどういった評価なのか、ということまで注視する必要がある。
ちなみに、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は3サイト共通して動員数に対して大量のレビュー投稿があった。本作はどのサイトでもレビューの点数が高めだが、それと当時に、どのサイトの利用者にとっても「どうしても一言いいたい!」と思わせた作品だったのであろう。
口コミの影響 ネット VS リアル
また、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』に関するインターネットの口コミレビュー点の悪さについては、ネット内あるいは業界関係者との話題の中で何度も見聞きした。では「ネットの口コミ」は”リアル”の口コミと比べてどうだったのか。
「進撃」を知っていたのに「観たくなかったから観なかった」人のうち、「ネット等の口コミの悪さ」をその理由として挙げた割合が9%なのに対し、知人・友人・家族からの「リアル」の口コミが良くなかったからと答えた人の割合は4%で、こちらのほうが低い。ほか作品と比べても、「リアルの口コミの悪さ」に対して「ネットの口コミの悪さ」の影響度が大きい。ネットの声が実際の声よりも大きく広まったという見方もできるし、ネットで言われているほどには、”リアル”の口コミは悪くなかったのではないかという見方もできる。
なお、調査対象の27作品においても、「その作品を知っていたけど観なかった理由」として、ネット、リアルとも口コミが悪いから、ということを挙げる割合は平均3%であり、他に挙げられる理由と比べて低い。たとえば、一番高い割合で挙げられる「好きなジャンルの作品ではなかった」の28%と比べても大きなかい離がある。
続編は観る?観ない?
続編の連続上映が最初から予定されていた本作、続編鑑賞意向と口コミレビュー点数の低さの関係はどのようなものか。
横軸に、Yahoo!映画でのレビュー点数を、縦軸に続編鑑賞意欲度(それぞれの作品を見た人の中で「続編があったら絶対に観たい」あるいは「観たい」と答える割合の合計)を取った。
こうしてみると「進撃」の評価点は確かに低いが、続編鑑賞意向は決して低くない。比較作品の続編鑑賞意向の平均値は65%だが、それを上回っている。
続編があることがはっきりしている中ではもう少し高い数字であることのほうが安心ではあるが、横軸の「評価」の低さの割に、続編鑑賞意向は相対的に高いともいえる。
ちなみに、この夏の作品で「続編鑑賞意欲度」が最も高かったのは、既に続編製作が発表されているトム・クルーズ主演の『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』の87%である。
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そもそもネットに口コミを書くのは、一部の人(過去一年間に映画を一本以上みた全国に住む15~69歳のうち13%)である。
本作はその中でも一部のユーザーに対して「一言、言いたい」と思わせた度合いが強く、その意見が他の作品より広く浸透したことが伺える。しかしネットにおける「評価」の低さのイメージは、続編を含めた興行の大きな痛手になっていたというよりかは、注目を集め、むしろ話題度の情勢につながっていたといえるのではないか。
週次の浸透度トラッキングデータでみると、前編の公開週での意欲度、認知度がそれぞれ4.2%、70%であったのに対して、本作は公開1週前時点の数値が3.1%、68%。
公開までの宣伝の追い上げによって、前作を見た人を含めて本作を「目撃」し、再び話題作となることに期待がかかる。
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