アカデミー賞の「価値」とは

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来週月曜日(2013年2月25日)に米国アカデミー賞が発表される。
アカデミー賞の「価値」は、立場・切り口に様々だが、劇場公開宣伝のマーケティングデータにおいては、特に「認知度が上がること」にある。受賞結果がテレビで報道され、認知度が一気に高まるからである。
以下は近年ノミネート作品の授賞式前後のテレビ露出量と認知率等の動きである。

受賞とテレビ露出量

以下の図は上記アカデミー賞関連作品の授賞式直前土曜日から一週間(金曜日まで)のテレビ露出量である。
対象作品は、2009年度から2011年度のアカデミー賞主要部門ノミネート作品(作品賞、主演・助演俳優賞)のなかから授賞式直前の金・土曜日あるいは授賞式後に公開が控えていた作品である。
青色の部分がテレビの番組で取り上げられた露出量であり、オレンジ部分がCMの露出量である。番組露出量はGRPと同じ考え方で推計されている。

受賞と認知率と意欲率の動き

以下は近年の主要部門ノミネート作品のうち、授賞式直前の金・土曜日あるいは授賞式後に公開が控えていた作品につき、授賞式前と後の認知度、意欲度の動きを示したものである。赤の矢印で示したのは受賞作。緑はノミネーションどまりの作品である。
横軸が作品名の認知度、縦軸が意欲/認知度(作品認知者のなかでの意欲率)。ななめにある等高線は意欲度の高さを示している。

注目すべきは推移の向き。
ほぼ水平に動いた場合は、認知は上がったが意欲はあまり上がっていないケース。縦に伸びた場合は認知はあまり上がっていないがその中での意欲度が上がったケース。一番いいのは、右斜め上に動くケース。認知率も、またその中の意欲/認知率も伸びて大きく意欲率が上昇している。

作品賞は別格の扱い

上記二つのチャートからわかるのは、作品賞を獲得した「英国王のスピーチ」「ハート・ロッカー」「アーティスト」の動きの大きさとそのドライバーとなった圧倒的な番組内露出量。いずれも20ポイント程度認知度が上がっている。
「ハート・ロッカー」の番組内露出はキー局で6000ポイント以上、1ポイント=1GRP=約10万円とすれば、CMにすれば6億円相当の番組内での扱いがあったと推計される。「英国王のスピーチ」「アーティスト」が続く。
1週間で数千ポイントの番組露出というのはきわめて多い量である。2011年11月末から2012年11月末に公開された映画につき、公開12週前から公開日までの露出量を集計すると、トップ10には「アーティスト」が洋画として唯一ランクインしている。
【参考】:『2012年回顧 宣伝露出量(テレビ・劇場予告編)ランキング』
人気キャストによる宣伝活動が期待できる邦画と対照的に、洋画は大物スターの来日でもない限り番組内露出がなかなか出にくいが、アカデミー賞作品賞は別格である。
ただ、認知は同程度上がっているが、意欲率の伸び方は三作品とも異なる。「英国王のスピーチ」は認知度の上がり方を最大限生かして意欲も伸びた例。その後の口コミの展開もあって最終興行収入18億となっている。

作品賞を逃した場合?

作品賞ノミネートされていても受賞しなかった場合、ほぼ露出は期待できないが、例外は、知名度の高い俳優賞獲得、公開が近いものは露出が多め。
たとえば、公開が授賞式後すぐだった「ヒューゴの不思議な発明」「戦火の馬」などの作品は、テレビCMはもちろんアカデミー賞ノミネートと公開関連のパブが出ている。
「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」メリル・ストリープ「ブラック・スワン」ナタリー・ポートマンのように日本で知名度の高めの俳優が受賞すると、ある程度の露出が期待できそうである。結果、上向きに力強く動いていて、作品賞ほど露出はなくとも意欲を大きく喚起したことが分かる。それ以外では、ダブル受賞をした「ザ・ファイター」も公開が近く露出、動きともに大きめ。

今年の状況は?

現在アカデミー賞関係作品の認知度・意欲度は下記の図の通り。公開前の作品については先週土曜日の数値(赤)。公開済みの作品については公開時の数値(グレー)を用いた。

作品賞で名前が取りざたされている「アルゴ」「世界にひとつのプレイブック」「リンカーン」
この中で「世界にひとつのプレイブック」が受賞した場合、「旬度」の追い風を一気に受けた興行展開となりそう。「ハート・ロッカー」「英国王のスピーチ」と同じくアカデミー賞発表直前に公開されるからである。一方で「アルゴ」も授賞式直後に「拡大リバイバル上映」が予定されていることにも注目したい。
作品賞は受賞しなくても、主要キャスト賞獲得によって露出が期待できそうなのがデンゼル・ワシントン「フライト」、ヒュー・ジャックマンアン・ハサウェイ「レ・ミゼラブル」と考える。「フライト」は公開間近、「レ・ミゼラブル」は大ヒット公開中ということもある。
それ以外のキャストはほとんど日本で知名度がなく、報道で扱ってもらう上では仕込みの工夫が必要となりそう。たとえばダニエル・デイ・ルイスは、主演男優賞本命とも言われているが、年間1本以上映画を見る映画鑑賞者内で「リンカーン」の”ダニエル・デイ・ルイス“という俳優名に対する認知度は13%。一方のデンゼル・ワシントンの認知度は41%であり大きな差がある。
ちなみに、S級ハリウッド俳優トム・クルーズ、ブラッド・ピット、レオナルド・ディカプリオだと認知度は80%を超える。これは人気グループ”SMAP”や”嵐”のメンバーと同様の高さである。
【参考】:2012年春公開映画の『映画監督・俳優・女優の認知度と劇場動員力』
多く場合、作品賞と監督賞は同一の作品だが、今年はそれがバラバラとなる可能性も示唆されている。そうなったとき監督賞を獲得した作品の扱いはどうなるのかなど、結果のみならず、マーケティング指標上でのインパクトから目が離せない。

▼GEM Column:アカデミー賞関連のマーケティング分析▼
アカデミー賞と認知率の関係を考える 続編【2011年アカデミー賞結果発表後】

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