実写洋画シリーズの快挙/「ワイルド・スピード」ヒット度合の海外と日本比較

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前回コラムでは「ワイルド・スピード」シリーズについて、ロスで開催されたVariety誌主催のカンファレンスにおける、プロデューサーのニール・モレッツ氏とVariety誌の共同編集主任のEller氏の対談でのコメントを整理した。
今回は快進撃続く本シリーズのこれまでの軌跡について「アメリカ」、「アメリカ以外」(含む日本、いわゆる”International”市場)と「日本」を比較して考えたい。

シリーズ通じて大きな右肩上がり

「ワイルド・スピード」シリーズ最新作「SKY MISSION」は、世界中で記録づくめのヒットとなっている。アメリカで大ヒットスタートし、中国興行市場最高のオープニング。今も公開中だが、アメリカ国外興行収入は『アバター』『タイタニック』に続く10億ドル超え、世界興行収入も13.2億ドルを超え、歴代5位となった。
本作は2001年の1作目から約15年間にわたりおおむね2~3年おきに公開され、今回がシリーズ7作目。しかし、順風満帆でここまで来たのではなく、先日の対談でも、モリッツ氏はシリーズ初期のころの苦労について触れていた。
では、これまでのそれぞれの作品の最終興行収入の推移は、アメリカ、アメリカ以外、日本でどのようなものになっているのか。7作目は公開週末の前作比の値、各誌における見込み値から推計した(注1)。
「ワイルド・スピード」シリーズ各タイトルのアメリカ・アメリカ以外・日本での作品総興収(ドル・円) (7作目は推計試算値)
アメリカでは、前回のモレッツ氏のコメントの通り、3作目の「TOKYO DRIFT」では主要キャストが出ないなどの影響からいったん落ち込んでいるが、その後復活して今に至っている。アメリカでの1作目と比べた7作目の伸び方も目覚ましいが、より大きいのはアメリカ国外での伸び方。また、日本においても、アメリカ以上に大きな伸びを示している。

そもそも海外興行市場は拡大している

「前作比」の伸び方を考えるとき、市場自体の伸びも考慮すべきである。あるペースで興行収入が伸びていても、市場全体の伸び方次第では、相対的に地位が下がっている場合もあるからである。
そこで、各作品が公開した年における、アメリカ、アメリカ以外、日本の興行収入総計の推移を整理したのが以下の図である。
「ワイルド・スピード」シリーズ各タイトル公開年における各地域の市場全体総興収(ドル・円)
こうしてみると、「ワイルド・スピード」 の伸び率が最も目覚ましかったアメリカ以外での総興行収入の伸びが際立つ。アメリカも増加している。一方の日本は、ほぼ横ばい、あるいは、微減である。
このように市場の規模の変化自体がアメリカ、アメリカ以外、日本において異なるので、1作目と7作目のその市場内での「伸び」を考えるとき、「シェア」も見た方がよさそうである。
例えば、たとえ数字が伸びが鈍くみえても、市場規模の伸びよりも上回ったペースで伸びていれば、相対的には「力強く伸びた」という見方もできるからである。

日本でのシェアの伸びはアメリカ、アメリカ以外より大きい

そこで、市場内のシェア、つまり、「それぞれの地域における、各年の総興行収入に対するワイルド・スピードの最終興行収入の割合」の推移を整理した。地域別に1作目の伸び方を比較できるようにするために、それぞれの地域の2001年(1作目)の値を100として指数として整理した(推計の仕方の詳細は注2)。
アメリカ・アメリカ以外・日本における「ワイルド・スピード」シリーズ各タイトル作品総興行収入の映画興行市場に対する比率推移
こうしてみると、1作目と比べてシェアが最も大きく伸びたのは日本であることがわかる。
6作目から7作目にかけては「アメリカ以外」でのシェアの伸びが目覚ましく、日本と同レベルに追いつきそうだが、日本は、3作目から4作目にかけて横ばいだったことを除けばシェアは右肩上がり。1作目と比べた市場内のシェアは、アメリカ、アメリカ国外と比べて一貫してより高い値となっている。
右肩上がりの要因は、日本の市場において作品が前作比で伸びている中で市場全体の規模がフラットだったからであるが、市場規模の変化を勘案した伸びは、日本のほうが、アメリカ、アメリカ以外の地域よりも大きかったということである。
もちろん、世界も日本も最終興行収入はフィックスされていないし、市場全体の伸び率も未知数なので最終的にはどうなるかはわからない。しかし、市場がフラットで推移して、洋画については「低迷」といわれて久しい日本においては快挙といえる数字ではないか。

ヒットの要因は途中から見てもわかりやすいことも大きかったのではないか

このような快進撃の要因は何か。
まず、どの地域にも言えることとして、モリッツ氏が言っていたように、「車、アクション、キャスト、”girls”」という訴求力の多様さがベースにあった上で、ストーリーの面白さ、ヒットから次回作のスケール拡大という良循環が続いたことは大きな要素であったと考える。アメリカにおいては、前回のコラムの通り、人口として増えているヒスパニック系の人気キャストの訴求力もあったとみられている。
もう一つの要素として「わかりやすさ」もあるのではないか。
本作がアメリカで大ヒットしている大作シリーズと異なる点として、設定と登場人物の理解のしやすさがあると考える。例えば、宇宙人の登場、「近未来」や日常にはない複雑な設定や、登場人物の特殊能力などの要素がない。登場人物は多いがそれぞれのキャラクターは明確でわかりやすい生身の人間である。
2~3年ごとというペースで、次回作が公開される中で、作品の訴求力の多様さとスケール拡大だけでなく、こうした「シンプルさ」は前回見た人がもう一度来ること、また、新しい顧客層を獲得し、シリーズが成長していくうえで有効だったのではないか。
そのことが、アメリカ国外はもとより、そもそも接触メディアの種類や情報量が増え、作品ごとの認知度が上がりにくくなっている日本では特に大事な要素だったと考える。

市場規模が横ばいで、今後人口の減少が見込まれている日本の映画興行市場における本作の快進撃は、映画興行の発展に向けたたくさんのヒントが上記以外にも詰まっていると考える。

注1:7作目の最終興収の試算ロジック
・アメリカと日本では、公開週末の成績の前作比と同じ割合で伸びるとみなした
・アメリカは公開週末成績前作比151%→6作目最終興行収入238百万ドル×151%=361百万ドルとみなした
・日本は公開週末土日が前作比123%→6作目最終興行収入20.2億円×123%=25億円とみなした
・アメリカ以外の興行収入については、本作の世界興行収入見込みを1400百万ドルとし(Variety誌4月23日付記事より)ここからアメリカの見込み値361百万ドルを引いて1039百万ドルとみなした

注2:各地域におけるシェアの推移の仕方
・それぞれの地域におけるその年のワイルド・スピード最終興行収入÷その年の総興行収入の値を計算し、2001年の値を100として指数表示した
・第7作目の最終興行収入の見込み値は前述の通り
・2015年の各市場の興行収入は、アメリカ、アメリカ以外は、2009年から2014年の間の年平均成長率(CAGR)を2014年の結果に乗じた
・日本は2014年の値を据え置きとした

あわせてご覧ください

VARIETY誌主催「THE ENTERTAINMENT MARKETING SUMMIT」レポート

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