「TIME/タイム」のヒットについて考える(後篇)~ゼロベースからの洋画大作のヒットの要件~

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前篇では、「TIME/タイム」はどのぐらい前から”大ヒット”の兆候があったのかについて公開前のマーケティングトラッキングデータの動きから考えた。後篇では、「TIME/タイム」の認知率等の数値の傾向や意欲層のセグメント別構成比を類似作品と比較分析する。
その過程で「TIME/タイム」の特徴を浮き彫りにしつつ、「ゼロから宣伝を立ち上げるハリウッド洋画SF/アクション大作のヒット(週末興行収入2億越え≒ヒットの目安最終興行収入10億越え目安)の要件」
のあぶりだしを試みたい。

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比較に使った作品の抽出条件は下記のとおり。
○2010年から2012年2月までの間にハリウッドメジャー(※1)が配給
○300スクリーン以上規模で公開
○15歳以上がメインターゲットの洋画SF/アクション作品
○認知ベースなしの作品、つまり「ゼロから宣伝を立ち上げていった作品」
認知ベースなしの作品とは、シリーズもの・有名原作ものではなく、12週前時点での認知率が20%未満の作品を指す。

具体的作品リストは<図1>のとおり。

「TIME/タイム」はオレンジ、公開週末興行収入が2億以上の作品を青、2億に満たなかった作品を赤で示した。

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<まとめ>
ベース認知のない洋画SF/アクション大作のヒット(週末2億越え)の条件と「TIME/タイム」の特徴

認知率、意欲/認知率とテレビ宣伝
○ヒットの条件
12週前から8週前ぐらいの時点で7%以上の意欲/認知率の数字をコンスタントに出していれば、2億越えのポテンシャルがある作品として、テレビに宣伝資本を投下して「2億越えの条件」である認知率40-60%を目指すべき。このゾーンの作品が40-60%の認知率を達成するためには様々なシナリオがあるが、テレビ露出量(※2)としては12週前~公開週までの累計でCMでは1500~2000ポイント、パブリシティは1500~2000ポイント程度の露出が目安。
逆に当初は2億越えの構えで宣伝をする予定でも、12週前ぐらいのタイミングで意欲/認知率を7%を大きく下回っていれば、よほどの秘策がない限り予算は増やさないあるいはカットしていくという戦略をとるべき。
○「TIME/タイム」の特徴
意欲/認知率は10週前に6.0%スタート、その後公開まで10%を越えた。公開までの意欲/認知率の平均は8.3%。
認知率も10%から45%まで上げているが、テレビパブリシティはほとんどなく、テレビCMに集中して効率的に認知率を上げたケースである。
 
◆意欲層の構成
○ヒットの条件
こういった洋画作品が公開週末2億越えるためには、鑑賞者人口構成比と比べて女性の意欲層の割合が高いことは重要(60%越え)。年齢層は40代以上の年齢層高めの層をしっかり取りきることが大事(50%以上)。また、観賞本数別にみて、12本以上の層の意欲率20%、6-11本の人の意欲率5%越えが目安。
○「TIME/タイム」の特徴
本作品は女性の意欲層も鑑賞者構成比と同じ程度取り込んでおり、この週の作品のヒットの条件を押さえている。一方、意欲層に占める若者(39歳以下)の割合が同種の作品と比べて極めて高めだったことは特徴的。また、2億越え作品の例にもれず、年間観賞本数12本以上、6-11本をそれぞれ26.4%、8.5%確保している。
 

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<分析の詳細>
◆認知率
以下の図では、横軸を認知率、縦軸を意欲/認知率として、各作品が公開10週前から公開週に向けて数値の動きを示している。

どの作品も10-20%程度でスタートするが、2億超える作品は、公開週に認知率が40~60%程度まで上昇する。「TIME/タイム」も、10%から45%まで上げている。

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◆テレビでの宣伝量
下記に、どの程度テレビで宣伝をしたのかを試算したものを示した。
横軸に公開12週前から公開週までのテレビ露出量(※2)を累計した数値、縦軸に公開週末土日の数値を比較したものである。
<図3>はテレビCM、<図4>ニュースなどでのパブリシティの露出の量である。

「TIME/タイム」は、パブリシティはほとんどなく、テレビCMに集中して認知率を上げたケースである。
それぞれの作品を見ていくと、CMをそれほど打っていなくても効率的に認知率を上げて公開週2億を越えた作品や、洋画であってもキャストの来日などで大量のパブリシティ露出をした作品があるのが分かる。
露出量に対して興行収入の数値はばらつきがあり、「2億を越えるためには」というラインを引くのはなかなか難しいが、ざっくりと目視で確認すると、CMではこの指標で1500~2000ポイント、パブリシティでも1500~2000ポイント程度露出があれば安心であるという見方が出来そう。

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◆意欲/認知率
下記の<図5>は、最初の図2と同じ図だが、縦軸の意欲/認知率に着目したもの。

「TIME/タイム」は6.0%スタート、その後公開週には10%を越えて11.7%を達成している。
公開週末土日2億越え作品の動きを大まかに青色で囲った。
公開週末土日2億円を超える作品は10週前から意欲/認知率が6-7%程度、公開まで10%程度まで上がっていくケースが多い。
一方、公開週末土日2億未満の赤い囲みの作品は、意欲/認知率が1-3%程度でスタートしていることが多く、1-3%のまま同レベルの数値を維持するか、6%程度までしか上がらないケースが多い。
下記<図6>は、横軸に意欲/認知率の12週前から1週前までの平均値、縦軸に公開週末土日の興行収入をとったものである。

こうしてみると、2億以上を達成する上では、意欲/認知率はおおむね「7%程度」というのが一つのラインと言えそう。
12週前から8週前ぐらいの時点で7%以上の意欲/認知率の数字をコンスタントに出していれば、2億越えのポテンシャルがある作品として、テレビなどへ宣伝資本を投下して認知率40-60%を目指す、逆に当初は2億越えの構えで宣伝をする予定でも、7%を大きく下回っていれば、よほどの秘策がない限り予算は増やさないあるいはカットしていくという戦略には合理性があると考える。
「TIME/タイム」の意欲/認知率は平均8.3%であり、高めに推移したことが分かる。

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◆意欲層の構成:性別
下記<図7>は公開週末土日の興行収入が多かった順に作品を並べ、公開週における性別の意欲層構成比をみたもの。一番上に映画観賞者の構成を示し、それと比べて男性よりだったのか、女性よりだったのかがわかるようにした。

こうしてみると、やはり公開週末土日2億以上の作品は女性の割合が高めである。一方、公開週末土日2億以下の作品は女性の割合が低い。洋画アクション・SF大作は女性まで広がっていくことがヒットの条件ということが裏付けられたともいえる。
「TIME/タイム」はやや男性よりだが、映画観賞者人口の男女比(43% VS 57%)とほぼ同じ意欲の構成比(47% VS 53%)、女性にもある程度広がった例と言える。

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◆意欲層の構成:年代
下記<図8>は年代別の意欲層構成比をみたもの。15-39歳と40-69歳に分けた。この区切りで映画観賞者人口はちょうど半々(49% VS 51%)になる。

男女比と比べると、年代の偏りがヒットに関係しているとは言いにくい。洋画大作好きは、一般的に年齢層が高めであるのが如実に出ている。「まずは年齢層高め」をきっちり取らないとスタートラインにも立てない、ともいえそう。
その中で特筆すべきは、「TIME/タイム」が際立って若者の比率が高かったことである。その割合は、15-39歳が57%に対して、40-69歳が43%。「25歳で年齢がとまる」という設定なので若者向けだともいえるが、近年の洋画アクション・SF大作のなかでは、ゼロから極めて異例な高さまで若者の意欲を喚起した作品であるといえる。

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◆意欲層構成:地域
下記<図9>は地域別に意欲層の構成比をみたもの。

2億超えしたかどうかで比べると際立った特徴はないが、「TIME/タイム」は映画観賞者人口の分布とほぼ同じ意欲構成比であり、地域別の偏りなく全国で意欲が喚起されたことがうかがえる。

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◆鑑賞頻度別意欲
最後の<図10>は、年間鑑賞本数別に意欲層の構成比を示している。

鑑賞本数の多い人の意欲がそうでない人に比べて高いのは当然なのだが、やはりこの層に訴求することが重要だと言える。公開週末土日に興収が2億を越えた作品は、鑑賞本数が多い層でおおむね20%以上の意欲率を達成している。一方、2億に届かなかった作品は10%半ばに留まっている。また、もちろんややミドル層(6-11本)にも高めの数値で、5%以上となっている。
「TIME/タイム」も鑑賞本数12本以上の層における意欲率が26.4%としっかりヘビー層に訴求しており、劇場での宣伝展開の強さがわかる結果となった。また、6-11本でも8.5%である。

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<最後に>
「TIME/タイム」は「認知ベースなし」でゼロから宣伝を立ち上げていった洋画作品の成功例である。このコラムでは前篇、後篇に分けて、同じような作品について、12-8週前ぐらいからのタイミングでの興行収入のシミュレーションで見えること、成功の目安である「公開週末2億越え」のための認知、意欲、テレビ露出量、意欲層の構成などの目安値を分析した。
こういった作品は、たとえ観てみれば作品が非常に面白く、あるいは全米でヒットしていても、日本ではヒットの目安である最終興行収入10億を越えられないことがよくある。原作やシリーズ物等の作品のファンベースもなく、邦画のようなキャスト稼働によるテレビ宣伝もない、「ないないづくし」というハンデもある。一方で、「TIME/タイム」のようにきっちり2億越えていく作品もある。本作のヒットは洋画大作に携わる人々にとっては朗報だと考えた。
投下資源は限られている中、「ヒット」あるいは「TIME/タイム」のような”化け方”をするのかどうかをなるべく早い段階で判断し、アクセルを踏むのかブレーキを踏むべきなのかのさじ加減で映画会社の収益性は当然大きく変わってくる。その見極めは経験に裏打ちされた覚悟・確信こそが一番大事だと思うのだが、それを補強する形で、客観的な指標を使った目安があれば、変わりやすい市場の細かい動きも察知でき、また、業界外の協力者にも説明がしやすくなるのではないだろうか。
近年全般的に宣伝費がしぼられている中、その作品をみて喜んだであろう人に作品が埋もれて届かないことが増えているのではないかと考えることがある。文化・嗜好性の違いはもちろんあるのだが、世界をターゲットに大きな資本をかけた作品たちはもっともっと日本の観客を楽しませられるのではないか。映画ビジネスの活性化につながると信じて、こういった客観的な指標・データに基づく分析結果を映画ビジネスに携わる方々に伝えていくことを通じて映画と映画観賞者のマッチングが今よりももっと効率的になされることに貢献していきたい。

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(※1)ウォルト・ディズニー、ソニー・ピクチャーズ、東宝東和(ユニバーサル)、20世紀フォックス、パラマウント・ピクチャーズ、ワーナー・ブラザース(50音順)
(※2)テレビ露出量の計算ロジック:首都圏エリアのNHK総合及びキー局(日本テレビ・TBS・フジテレビ・テレビ朝日・テレビ東京)の放送を対象に、対象作品に関する露出時間を15秒を1単位として換算。15秒以下も加算しており、秒数に応じて加算数値を調整している(例:5秒の場合は1/3)。年間平均視聴率で重みづけした数値を使用。

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