先日、西麻布で開催中の「CINEMA LOUNGE 100」のトークイベントにてお話させていただきました。その際の内容の一部を掲載します。イベントでのお題は「外国映画のヒットの要因と未来をデータで考える」でしたが、外国映画に限らないテーマも含む内容だったので、このコラムにおいて再構成しました。
「オール・ユー・ニード・イズ・キル」2014年7月4日 公開 (C)2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
◆作品公開時の認知度が低下◆
最近、このサイト上のコラムで繰り返し書いているように、近年作品公開時の認知度が下がってきています。邦画も下がってきていますが、洋画のほうが大きく低下しています。
この要因の一つとして、認知度を上げる上で重要な媒体のテレビCMの認知度上昇効果の問題もあります。
また、もう一つの認知度を上げるドライバーはテレビ番組内での宣伝露出ですが、特に洋画は厳しい。パブリシティの量を増やすことで全体露出量を補完することは難しい状況です。
民放の映画枠も数が減ってきていて、また、主演俳優の来日が減り、また来日しても扱いが大きい俳優が限られています。
外国人俳優の扱いが少ないのは、そもそも認知度が日本人俳優と比べて低めということも関係があるでしょう。
最近の公開映画の主演俳優につき、認知度や興味度につき、インターネット調査をした結果を集計すると、外国人俳優で最も認知度が高いのはトム・クルーズです。(調査概要:2014年1月18日、19日実施、サンプル数1026。対象映画は2011年以降に公開され興行収入3億円以上の実績・見込みのものすべてと今後公開が予定されている作品のうち俳優判明分)
しかしそのトム・クルーズも221人中57位です。
ちなみに日本人俳優の認知度トップ3はビートたけし、福山雅治、上戸彩です。トム・クルーズと同じぐらいの認知度の日本人俳優は、NEWSの山下智久、原田知世などでした。トム・クルーズに続くのは、トム・ハンクスとジャッキー・チェンです。
◆ストーリーをより広く浸透させるよりも、狭い範囲での「深さ」で動員◆
しかし、「洋画の認知率と興行収入の関係に変化」に書いたように、洋画も過去と比べると認知の割に高い興行収入になった作品も増えてきています。
また、そもそも邦画も、大量の番組内露出と高い認知度がそのまま大きな興行収入につながっているかといえば、そうではありません。
では、映画鑑賞者が普段映画館で映画を見る際に重要視することは、何でしょうか。俳優、監督、ストーリー、話題性もどれも大事ですが、それらの度合はどのぐらいでしょうか。
そこで、インターネットアンケートにおいて、「制作者」(出演俳優・監督等が有名・好き)、「作品内容」(テーマ、ジャンル、原作、映像など)、「話題・評判その他」(著名人が進めている、映画祭・映画評での評価、周囲の勧め、インターネットなどで話題になっている、一緒に行く人がいる等)の観点から、意欲のドライバーとなりそうな事柄の26項目中から「映画を見る際に重要視すること」を選んでもらいました。
結果、圧倒的に高かったのは、「設定・テーマに興味がある」「好きなジャンルである」ことです。
俳優の力は、テレビ露出による作品認知度上昇において重要な手段ですし、意欲にもつながるのですが、一番カギとなるのは作品の内容という構造が見られます。そもそも、立ち返ると最終的に選ばれる基準はストーリーということでしょう。
認知から最終的な意欲の喚起の方法として、なるべく広く作品を浸透させてその中で動員するという形から、以前よりも限られた範囲でもその中でしっかり求める人に作品の存在と中身を伝えることで成功する作品が増えてきているようです。
◆作品の「成功」を興行収入だけでなくもう一つの「深さ」でとらえる◆
個人的な体験としてですが、最近映画を見に映画館に行くとグッズ売り場で長蛇の列を見かけることが多くなってきました。
並んでいる人たちは、そのとき上映されている従来の観点でとらえられるマス向け映画の観客ではないことが多いです。目的の作品は、色々ですが、コンサート中継やアイドル主演映画、深夜放送アニメの劇場版等です。
そうした光景の中で印象的なのは、列の長さはもちろんですが、一人一人がたくさん買い物していることと、そして何よりもみなさん表情にワクワク感がみなぎっていてとても楽しそうであることです。
では映画鑑賞時に、2時間座ってみるためにチケットを買う以外の行動の状況はどうなっているのか。
下の図は、2013年に公開された映画を鑑賞した人に対して、満足したかどうかとともに、その後の関連消費行動につき質問したアンケート結果を集計し、ジャンル別に分けて平均値を算出したものです。
満足したと答える割合についてみると、邦画アニメ・実写は57.7%であるのに対して、洋画実写は62.0%で、相対的に満足度が高い割に、関連消費行動をとった割合が低いことがわかります。
洋画アニメや邦画実写・アニメも、関連消費行動の潜在機会をとらえきれているのか議論の余地がありそうです。
ここに映画がとらまえきれていない「深さ」のポテンシャルを感じます。
もちろん映画興行の動員自体も増やす余地があるでしょう。しかし日本は人口が減ることが見込まれている中、頭数を増やすことは以前より難しくなっています。
一方で、100万人から1000円でも、10万人から1万円でも同じ売上です。もちろん、関連消費や波及効果はパンフレットを買ったりもう一度見ることにとどまらないでしょう。その映画をきっかけに原作本が売れることはもちろん、新しいスターが誕生したり、新しいカルチャーブームのきっかけとなったり、興行収入結果だけでは測れない波及効果は作品によってはすごく大きなものがあります。
そういった広がりも消費者の視点に立てば映画を軸にした喜びですし、これを事業者の収益として獲得機会をもっと追及してもよいのではないか。映画を軸としたより大きな喜びが循環するようになるのではないか。「オリンピックの経済効果」などが新聞で取り上げられますが、映画も興行収入結果だけでなく、「関連消費含めた波及効果」という指標があったらビジネスのとらえ方も変わるのではないか。
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このように、昨今の映画興行やマーケティングデータをみるにつけ、映画も多くの人に薄く広くではなく限られた人に「2時間の鑑賞経験」を超えて如何に存分に楽しんでいただくのかをゴールにするということに、新しい繁栄の在り方を感じています。