ハリウッドマーケティングリーダーの本音(5)伝統的なトラッキングデータ VS ソーシャルメディアデータ


(2015年4月ロサンゼルスにて開催されたVariety誌主催のカンファレンスメインイベントの一つ、”The Masters”というセッションレポートの続きです。パネリストはハリウッドメジャー各社のマーケティング問の幹部で、顔ぶれはこちら

ハリウッドマーケティングリーダーの本音(5)伝統的なトラッキングデータ VS ソーシャルメディアデータ

多くの映画会社において、マーケティングデータ含めて各種データ分析を行う場面は多かれ少なかれあるだろうが、ハリウッドメジャー各社は世界で最もデータ分析に予算を投下する企業であろう。

セッション中、多くの場面でデータ分析に触れられたが、モデレーターから改めて、公開前の浸透度や興行収入見込みの分析において、アンケートに基づくトラッキングデータという伝統的な分析手法と、ソーシャルメディアで得られるデータの分析、それぞれにどの程度比重を置いているのかという質問が投げられた。

公開前のデータに基づくヒット見込みの分析

20世紀フォックスのワインストック氏は、「トラッキングもソーシャルデータ分析も、それぞれよいところがあるが、また欠点もあり、状況を正しくとらえるには両方をみる必要がある」と回答。

例として、”Kingsman: The Secret Service” (邦題『キングスマン』)における事前の各種データによる報告について挙げた。

“Kingsman: The Secret Service”は、今年の2月の全米公開時に週末ランキングでは1位の”Fifty Shades of Grey”には及ばなかったものの、スマッシュヒットとなった作品である。

曰く、「公開前のトラッキングの数字は非常に低く、それだけを見ている限りでは目論見を下回りそうだったが、デジタルチームからはソーシャルメディアの反応は非常に良いとの報告を受けていた。何か起こりそうな予感がしていたので、当初の予定通りの宣伝展開をして、狙い通りの結果が出た」とのこと。

キングスマン_メイン

ワインストック氏は、宣伝展開および作品浸透度のモニタリングにおいては、一般論として映画の公開規模、ジャンル、アニメかどうか等々映画の中身や置かれている状況によって異なる見方をしていくべきであることを強調。

パラマウントのクーリガン氏も「デジタルマーケティングが隆盛であってもテレビによる広告・プロモーション活動が健在であるように、ソーシャル・リスニングがトラッキングにとって代わったわけではない」とコメント。「こうした中、現在さまざまな優れた分析ツールがあるということはとても良いことだが、ツールの種類は非常に多く、大量のデータに依存している」とコメントし、便利なものが多すぎてかえって難しい側面もあることをほのめかした。

20世紀フォックス・サーチライトのフーパー氏は、データ分析はインデペンデントな小規模映画においてはまた違う側面があることと、具体的な手法について披露した。(詳細はこちらをご覧ください→ハリウッドマーケティングリーダーの本音(3)小規模公開映画の宣伝手法

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公開前のマーケティングデータ分析の傾向

映画に限らずであるが、いまはマーケティング・宣伝担当者の中でデータや分析手法がなくて困っている人はおらず、むしろデータと高度な手法がありすぎて困っているという状況と感じる。

弊社においては、劇場公開前の宣伝展開の状況を把握するために市場の反応を測っている。アンケートデータに基づく認知度・意欲度等の浸透度データに加え、Twitter等のソーシャルメディアの反応も、テレビでの露出、劇場予告編の到達度、ネットニュースなどの数値と併せて分析・レポートしている。これ以外にも、有力な各種映画情報サイトでの「見たい」という反応値なども有効であろうし、それぞれの映画の公式ホームページのPV数・UU数はもちろん、前売り券の売れ行きも示唆を与えるポテンシャルを大いに持つものである。

このように各映画会社がアクセスできるデータの種類と量は、前売りの売れ行きだけ、あるいはトラッキングデータだけだった時代と比べると大きく様変わりしている。

どんなデータであっても正しい比較をすれば意味合いを出してくれる。データの量と種類が多くなっていることで、データ自体よりも、個々の状況に応じてどの指標で、どの作品と、どういった軸で比較するのかという分析軸を決めるところに付加価値がますます移ってきているのではないか

まさにワインストック氏の指摘のとおり、「映画の中身や置かれている状況によって異なる見方をしていくべき」であり、その度合いは年々加速している。一方で、分析すべきデータと分析軸が正しく選択されたあとには、じっくり慎重に、あるいは時には動物的感に基づいて、論理的に意味合いを出して戦略に生かすということは、今も昔も変化はないと考える。

ハリウッドマーケティングリーダーの本音

(1)「素晴らしい映画マーケティングの条件とは」
(2)「ソーシャルメディアの存在感と影響力」
(3)「小規模公開映画の宣伝手法」
(4)「映画タイトルの重要性と成功事例」
(5)「伝統的なトラッキングデータ VS ソーシャルメディアデータ」
(6)「若者を映画館にどう動員するか~市場の変化に対応する(1/2)~」
(7)「「満たされていない観客層」としての中高年~市場の変化に対応する(2/2)~」
(8)「今こそ映画マーケティングが面白い」

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