Variety誌主催カンファレンス

ハリウッドマーケティングリーダーの本音(1)「素晴らしい映画マーケティングの条件とは」


これまで何度かレポートしてきたVariety誌主催のカンファレンスのメインイベントの一つ、”The Masters”というセッションでは、ハリウッドメジャー各社のマーケティング部門の幹部が顔を揃えて映画のマーケティングについてその本質や課題と展望につき幅広いトピックで意見が交わされた。

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パネリストは以下の顔ぶれで、Variety誌の共同編集長のクラウディア・エラー氏がモデレーターを務めた。

ミーガン・ クーリガン氏(Megan Colligan, President WW Distribution and Marketing, Paramount Pictures)
ジョシュ・ゴールドスタイン氏(Josh Goldstine, President Worldwide Marketing, Universal Pictures)
ミシェル・フーパー氏(Michelle Hooper, EVP, Marketing, Fox Searchlight)
リッキー・ストラウス氏(Ricky Strauss, President, Marketing, The Walt Disney Studios)
マーク・ワインストック氏(Marc Weinstock, President Domestic Theatrical Marketing, 20th Century Fox)
アンジェラ・コルティン氏(Angela Courtin, Chief Marketing Officer, Relativity)

素晴らしい映画マーケティングの条件とは?

まず、「マーケティング」=「データ分析」という使われ方をされることもあるが、ここでは「映画宣伝活動全般」からイメージされるような、より広い活動を含む概念である。

セッションの一番最初のトピックとして「素晴らしい映画マーケティングの条件は何か」という質問が投げかけられた。

まず答えたのは パラマウントのクーリガン氏で、「二つの側面」を提示。

一つは、明らかなことだがと前置きしつつ、観客と対話をしている必要があると指摘。観客がどのように情報を受け取り、それに対する反応は様々なメカニズムによって理解できるが、それに対してきちんと対応することが「対話」を続けることになると言及した。

もう一つの側面としては、各部門・関係者を一つにするアイデアがあることと指摘。一つの映画に関わる部門がPR、メディア、リサーチ、デジタルマーケティングと多岐にわたることからそれぞれが連携せずバラバラに「サイロ」のような縦割りの状況になりがちだが、これを打破するようなアイデアがすべての関係者を奮い立たせ、宣伝活動の素晴らしい瞬間をもたらすとのこと。

ウォルト・ディズニー・スタジオのストラウス氏は、時代精神を象徴する事象の中にあること(”being in the cultural Zeitgeist”)が素晴らしいマーケティングの条件であると語った。たとえば映画の公開前に、多くの人がみる人気トークショー番組(Saturday Night Live)でそれが風刺的に取り上げられればそのことを感じられると指摘。

続けてストラウス氏はマーケティング活動の素晴らしさを客観的に測る尺度はさまざま、人によって異なるとつづけた。たとえば、映画がヒットしなかったが「プロモーションの内容は面白かった」場合に、「素晴らしいマーケティングだった」という人もいれば、一方で、映画自体は大した内容ではないのに宣伝でヒットするとそれもまた「素晴らしい」と言われることがあると例を挙げた。

ユニバーサルのゴールドスタイン氏は文化、ビジネス含めて様々な側面があることが映画マーケティングの面白さであり、評価軸がそれぞれ違う中で誰が「よいマーケティングだった」と判断しうるのかという命題は興味深いものだが、自身が主観的に判断する時、「もしもう一度やりなおすことがあったとしたら同じようにやるだろうか」という視点で振り返るとコメントした。

モデレーターからのこれまでの作品で「全然違うやり方でやりなおしたい」と思う作品はあるか?という質問に対しては、ゴールドスタイン氏は過去のエピソードを披露。

「女性向けの映画ばかりがヒットしていた時代に、『ROCK YOU!』に似た映画があって、ようやく男性向けの映画が来たと思い、スーパーボールのCMスポットも確保できたので男性に向けて宣伝することだけを考えた。しかし、実際は中身は女性向けの恋愛要素が多い作品だった。映画を拡大解釈して観客を増やすことができることもあるが、映画の中身を尊重した方がいいこともある。このケースは後者であり、興行的にも失敗した。」とコメントした。

ハリウッドで最も難しい仕事は映画マーケティング?

ここで、モデレーターはセッションのパネリストは皆「ハリウッドで最も大変な仕事」をしているとコメント。

映画がヒットし成功してもマーケティングのおかげとは言われることは少ないが、映画がヒットしないとマーケティングのせいだと言われ、時にはクビにされるという、まさに「勝ち目のない状況」にさらされているとみえるが、それが不公平に感じることはないかという質問を投げかけた。

20世紀フォックスのワインストック氏はこれに対して、映画マーケティングが大変な点につき次のようにコメントした。

「映画製作も、ビジョンを持ちそれを実行しなければならないという点で非常に大変な仕事だが、映画製作者は自分の作品を自分で作る。一方、マーケティングをやる人間は一年に20作品も担当し、毎年大きな予算責任を持つプレッシャーを抱える。映画自体の質も大事なのだが、プロモーション施策を考え、実行し、数多くの人にその映画を見に来るよう説得しなければならない。」

さらには自身の考えでは映画マーケティングは結局公開までの最後の48時間にかかっていて、ソーシャルメディアの反応から、結果は期待以上になるのか、そうじゃないのかわかるこの瞬間に向けて、すべてのことをやり遂げておかねばならないとコメントした。

◆ ◆ ◆

ここから、いまの映画マーケティングの様々なトレンドや課題につき話題が及んだが、次回以降、本セッションで触れられたソーシャルメディアの活用、小規模公開作品のマーケティング、作品タイトルの重要性、映画館で映画を見ることの魅力、海外マーケティング等々のテーマにつきまとめていきたい。

このセッションの様子で興味深かったのは、ハリウッドメジャーの幹部同士が普段から情報交換などの交流がある様子が伺え、この点が日本の邦画、洋画に限らず、映画配給会社の方々が話すときの雰囲気と共通している印象を受けたこと。これはほかの業界からのパネリストが参加した他のセッションとは大きく異なっていた。ハリウッドメジャー各社の幹部が他社のメジャー会社の作品につき「素晴らしい事例」として挙げてそれを讃えることもしばしばであった。

社員が一つの配給会社から別の配給会社に移ることも多く横のつながりが深く、映画産業を盛り上げていこうという強い共通意識があるという点がアメリカも日本も同じなのではないかと感じた。

また、「素晴らしい映画マーケティングとは」という問い、また、「映画宣伝はつらいよ」的なコメントは日本のハリウッドメジャーの東京オフィスの方々に限らず、関係者にも共感が得られる点なのではないだろうか。

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ハリウッドマーケティングリーダーの本音

(1)「素晴らしい映画マーケティングの条件とは」
(2)「ソーシャルメディアの存在感と影響力」
(3)「小規模公開映画の宣伝手法」
(4)「映画タイトルの重要性と成功事例」
(5)「伝統的なトラッキングデータ VS ソーシャルメディアデータ」
(6)「若者を映画館にどう動員するか~市場の変化に対応する(1/2)~」
(7)「「満たされていない観客層」としての中高年~市場の変化に対応する(2/2)~」
(8)「今こそ映画マーケティングが面白い」

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