ハリウッドマーケティングリーダーの本音(3)小規模公開映画の宣伝手法


(2015年4月ロサンゼルスにて開催されたVariety誌主催のカンファレンスメインイベントの一つ、”The Masters”というセッションレポートの続きです。)

このセッションのパネリストは、大規模な予算を持つ映画のマーケティングを統括するハリウッドメジャー各社の幹部以外にも、比較的小規模の映画を中心に取り扱う部門のトップも参加していた。

今回はそのFox SearchlightのMarketing EVPのミシェル・フーパー氏が語った内容を中心にピックアップしたい。

Variety誌主催カンファレンス

小規模映画「映画自体に頑張ってもらう」?

セッションでは大規模予算映画マーケティングに関する議論が続く中、モデレーターからフーパー氏に対して、小規模公開かつ革新的な映画とスペクタクル映画では、マーケティングの仕方はどのような点が異なるのかという質問が投げかけられた。

これに対してフーパー氏は「映画の質がものすごく高いことに頼っている点が異なる」と少しジョーク気味に即答して会場を沸かせた。

フーパー氏は、「まず、一般論として、小規模映画は往々にして、30秒のテレビスポットでどんな映画であるかを伝えるのは非常に難しい。そのため、どんな映画なのかを人々に知ってもらうという最も難しくて手間がかかる仕事を本編自体にやってもらう」と続けた。

つまり、事前に批評家・インフルエンサーが本編を鑑賞し、そこから発信されるメッセージや議論を宣伝に生かすとのこと。

「バードマン」の成功

直近では『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』が成功していたので、その際のエピソードが披露された。

「バードマン」は映画祭でプレミア上映されてすぐの早い段階からメディアやインフルエンサーの評価が高く、物語のあらすじだけでなく、物語の構造、監督がワンカットに見える撮影に挑んだことについてなど、幾重にも活発で有意義な議論が沸き起こったとのことであった。

一方で、別のディスカッションの場面では、小規模公開映画にとって、新聞業界の構造変化やカギとなる批評家の数が減っていることは打撃であるとした。シニアはまだ新聞を読んでいる人が多いが、こういった人々に何十年も頼りにされていたベテラン批評家がどんどん新聞社を去っていることを指摘した。

映画のコンテキストが後押しした例『わたしに会うまでの1600キロ』

「バードマン」のような、映画の中身が力を発揮した例だけでなく、作品のコンテキストや関係者の思い、強いメッセージを持っていることが効果を発揮した例として『わたしに会うまでの1600キロ』を挙げた。

曰く、本作は、山歩きの経験が浅いながらアメリカ西海岸1600キロ踏破した主人公の物語であるだけでなく、自分がやりたいと思うような役がある企画が見つからず、それを求めて自分の製作会社まで作り、原作権を取り、映画を作り上げて主演したリース・ウィザースプーンという映画スターの物語でもある。また、ベストセラー原作の作者もマーケティング活動において中心的な役割を担ったことについてもコメントした。

『わたしに会うまでの1600キロ』

© 2014 Twentieth Century Fox

フーパー氏は「このように、小規模映画のマーケティングの成功は中身にだけ頼るものだけではないが、根本として、映画自体の質が高くないとマーケティングは非常に難しい」と強調した。

事前データ分析よりも公開後の鑑賞者の反応をきめ細かく分析

セッション中、「大規模映画はリサーチやソーシャルメディアなどによる大量のデータを俯瞰的に分析して判断をしている」というコメントに対して、フーパー氏は、「小規模映画は同様にはできない」と指摘。

続けて、「小規模映画のマーケティングでは小さい規模でスタートし、鑑賞者の反応をきめ細かく見ながら宣伝プランを変更していく」とコメント。
実際に公開した後に、動員の状況、地域別、曜日や時間帯別に分析し、また、鑑賞者の満足度は全体数値だけでなく、性年代別に分析して、それらを踏まえて機敏にマーケティング施策の対応をしている様子について語った。

◆ ◆ ◆

ソーシャルメディアについて取り上げた前回コラムにおいても、批評はそもそも”ソーシャルメディアの一形態”というパネリストによる指摘について書いた。違う観点で捉え直すと、大規模公開映画は「インフルエンサー」による「口コミ」とその拡散が重要だが、小規模公開映画も、批評家(というインフルエンサー)による評価(という口コミ)が大事なのであって、映画のコンセプトであれ、本編であれ、映画自体の力をレバレッジする点は共通といえるのではないか。

また、フーパー氏が語るように、小規模映画においては批評家等を含めた観客に映画自体をぶつけていき、その反応を生かすという宣伝手法に頼らざるを得ないのは、予算の問題よりも、小規模映画はより複雑な物語の構造やコンテキスト情報の理解が必要で、わかりやすい記号を持つ「商品」になりにくいからであろう。

日本でも小規模公開映画がヒットした例は、フーパー氏が挙げた例のように、認知度の高さよりもごく少数のインフルエンサーの薦めに基づく狭い領域での話題性をトリガーに、観客の口コミが興行を引っ張っている例が多いように思う。たとえば、『チョコレート・ドーナッツ』や『セッション』などのように。

ハリウッドマーケティングリーダーの本音

(1)「素晴らしい映画マーケティングの条件とは」
(2)「ソーシャルメディアの存在感と影響力」
(3)「小規模公開映画の宣伝手法」
(4)「映画タイトルの重要性と成功事例」
(5)「伝統的なトラッキングデータ VS ソーシャルメディアデータ」
(6)「若者を映画館にどう動員するか~市場の変化に対応する(1/2)~」
(7)「「満たされていない観客層」としての中高年~市場の変化に対応する(2/2)~」
(8)「今こそ映画マーケティングが面白い」

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