ヒット作分析・ドラマ「半沢直樹」と映画「テッド」にみる共通点

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(執筆:梅津文)

 TBSドラマ「半沢直樹」は先日放送された最終回で「今世紀最高視聴率」を獲得した。映画化・続編などについて話題は尽きない中、高視聴率の要因には様々な見方がある。私は「半沢直樹」のヒットの仕方に「テッド」との以下の共通点を感じたので整理したい。
1)組み合わせの妙による「意外性」が訴求力のベースにあり、
2)通常想定される観客に加えてほかのセグメントも取り込み、
3)わかりやすいキャラクターが浸透・波及効果を爆発させる
という点である。
1)組み合わせの妙による「意外性」が訴求力のベース
 「半沢直樹」は銀行の不正・組織構造と主人公が戦う、という硬くなりがちなテーマに大げさな演出・キャラクター設定を加えてエンタテイメント性を与えた面白さがある。一方の「テッド」はジャンルとしてはアメリカンコメディであるが主人公に広く浸透しているテディベアを据え、しかも下ネタを言わせるという設定である。
 いずれも既定のジャンルから想像される内容にひねりがあり、「見たことのない、新鮮な面白さ」がまずベースにあった。
2)「意外性」が「ジャンル」の顧客層より広いセグメントを取り込む
 「半沢直樹」は日曜日夜21時放送、その後に「情熱大陸」なども控えていて、月曜日に向けてやる気・英気を養うビジネスマンがゆったりとテレビをつけている時間帯である。したがってこういった「ビジネスシーンを舞台にした直木賞作家による人気小説を原作としたドラマ」はポテンシャルが高く、「このビジネスドラマは面白そう!」と訴求できたであろう。そこに加えてその「エンタテイメント性」から「ビジネスドラマを必ずしもみない」人たちの目にもとまり、「このドラマは面白そう!」という期待があったことが想像できる。「ビジネスドラマで、エンタテイメント性がある」は前者に、「エンタテイメント性のあるドラマで、ビジネスシーンが舞台」は後者に訴求し、鑑賞層がつみあがっていったのではないか。初回も視聴率19.4%を超えているが、この数値は「ビジネスドラマ好き」だけでは稼げないであろう。
 一方の「テッド」も、「全米で大ヒットしたアメリカン・コメディ」に反応する層は基礎票として獲得。その上で、通常はアメリカンコメディには反応しない、映画ももしかしたら邦画ぐらいしかみない若い女性が「クマキャラ」に対して「かわいい!」と反応し、「しかも下ネタをいう」新鮮さに「面白そう!」と期待が高まった。こういった期待感から「アメリカンコメディ」というジャンル、公開規模からは想定しづらいレベルの公開週末三日間で興行収入約4億というスタートを切った。
 このように両作品とも「意外性」の味付けが既定のジャンル訴求層を押さえつつ、さらに広く訴求したことがうかがえる。
3)分かりやすいキャラクターのもつ「爆発性」
 「情報過多」のなか、人は欲しいものが選べなくなっているという。普通に生活していても触れる情報が多く、求めれば処理しきれないほどの量を得ることが出来てしまう。そんな中で、「それを手に入れたい」という欲求を刺激するにはシンプルなメッセージが一番有効なのかもしれない。エンタテイメントコンテンツにおいては、シンボルとしての分かりやすいキャラクターの強さが威力を発揮するだろう。さらには、ソーシャルメディアなどで拡散する際には短い一言あるいは一枚の画像が拡散しやすく、波に乗ればその勢いは加速度的に増す。つまり強いキャラクターのもつ訴求力と伝播力の威力が高まっていると考える。
 「半沢直樹」は新鮮なまでに熱い主人公のキャラクターを前面に押し出した。原作のタイトルは「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」であるが、ドラマ化の際にはタイトルに主人公の名前を持ってきている。「『倍返しだ』という決め台詞を叫ぶ『半沢直樹』が面白いの!」と言えばそれは伝わりやすかったはず。「昨日の『半沢直樹』が……」などとリアルな会話ではもちろん、ネットでの伝播性の高さも想像できる。
 一方の「テッド」についていえばタイトルが覚えやすいことはもちろん、「下ネタをいう顔はかわいいテディベア」はインパクトがあり、画像での分かりやすさも手伝ってネットで「一人歩き」して拡散していった。ソーシャルメディア関係者の中でも「テッド」の成功は大きな話題となった。
 このように、両作品とも、わかりやすくて「強い」キャラクターの訴求力・伝播力によって加速度的に話題性が広がっていったと言える。「半沢直樹」は初回19.4%と好スタートを切ったあと毎回視聴率を伸ばし「今世紀最高」の42.2%を達成。「テッド」は公開週末3日間4億円の大ヒットスタートのあとも勢いは衰えず最終興行収入43億となった。2013年実写洋画では現時点で「レ・ミゼラブル」(最終興行収入58億)に続く成績である。
◆◆◆
 以上のように「半沢直樹」「テッド」のヒットの構造には共通点が見られる。しかし事前に過去データに裏付けされた形で”ヒットを予測”することも難しい。「新規性」がポイントだからである。いずれも観客に提示する前は「ジャンルの呪縛」があったわけで「ここまで広がるとは思わなかった」と業界内でも驚きとして受け止められた嬉しい誤算ヒットである。また、”狙って”この方程式に単純に当てはめてヒットを狙うのは難しいのではないか。大前提としてクリエイターが面白いと思うものを創り、それを丁寧に観客に届けた結果として、「意外性」「新規セグメントへの広がり」「強いキャラクターによる加速度的な伝播」があったと考える。
参考
マイナビニュース
なぜ『半沢直樹』は『ミタ』を超えたのか? -連ドラ評論家・木村隆志がヒットの要因を徹底分析
ハフィントンポスト
半沢直樹のヒットは、テレビ番組にはマーケティングが要らない、ではなく、その考え方を変えなきゃ、ということじゃないかな
コピーライター・メディアコンサルタント 境治
なぜ、日本人はモノを買わないのか?: 1万人の時系列データでわかる日本の消費者
野村総合研究所ほか著 
GEM Column過去記事 『テッド』の宣伝プロデューサーに聞く
①公開前の戦略と各種データからの「手ごたえ」
②ヒットの要因

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