「テッド」の宣伝プロデューサーに聞く①公開前の戦略と各種データからの「手ごたえ」

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2012年の洋画の興行収入が、対前年比で18%落ち込んだと、映連(日本映画製作者連盟)によって発表された時、オープニング週1位の勢いを失わず、2週目も大ヒット記録を更新中だった洋画「テッド」。最終興行収入予測も40億円を超えました。
なぜ「テッド」を成功に導けたのか? 公開までの道のりと、ヒットの要因について、宣伝を担当した西埜公一郎宣伝室長、佐藤大典宣伝プロデューサーのお二人にうかがいました。

東宝東和株式会社 営業本部 宣伝部 西埜公一郎プロデューサー室長(以下:西埜室長)
同 プロデューサー室在籍 佐藤大典宣伝プロデューサー(以下:佐藤宣P)

聞き手・文章:GEM Partners 梅津文
(インタビュー実施日:2013年2月1日(金)東宝東和会議室内)

公開前の宣伝戦略は?

(通常のヒット基準である)興行収入10億円を目標に、ターゲットを核である男性から女性に広げていくこと

西埜室長

 世界中で大ヒットしていた「テッド」は、日本公開のみを残し2012年のユニバーサル作品の中で最もヒットした作品のひとつでした。世界中でヒットしても、日本だけ例外になることはよくありますし、特に「アメリカンコメディは日本では当たらない」傾向があるかと思います。また本作はR15指定作品ということからも慎重に考えないといけないところがありました。
そこで、足場を固める意味で一定の成績を収めた「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」などのコメディ作品を基準にターゲット戦略をスタートしました。コアターゲットは男性層。ただ、このキャラクターは女性層に響く可能性が高かったので、チャレンジ層として女性を位置付けました。当初の興行収入目標は戦略通りにいけば5億円とみており、一方で、10億円を狙える可能性を秘めているという意見もありました。

ヒットの手ごたえはいつ頃から?

「兆候」はいろいろ感じていたが、公開まで確信はなかった

佐藤宣P

 これほどまでに大ヒットすることは考えていませんでした。事後に「あれが兆候だったのかもしれない」と推論は出来ますが、なかなか事前に確信を持てるようなものはなく、結果論かと思います。
過去に様々な洋画の宣伝に携わった経験から若い女性に劇場まで足を運んで頂くことがいかに難しいかを実感していました。したがって「テッド」のキャラが公開前から若い女性に大人気とはいえ、それだけでR15指定のコメディ映画にお金を払って見に来てくれるかという部分は、全くの未知数でした。
公開直前には、前売り券の売れ枚数や公式サイト・公式SNSのアクセス数などが跳ね上がり、「これはひょっとすると……」と感じるタイミングは何度かありました。しかし、公開前の認知度・意欲度等のトラッキングデータも決して高い数字が出ていたわけではなく、それに基づく興収予測も低い数字が出ていました。結果的には予測数字を遥かに超える大ヒットですが、どこのマーケティングデータもそれを全く予測できていなかったように思います。

Facebookなどソーシャルメディアの反応からの感触は?

盛り上がりは感じたが、どの程度動員につながるかは未知数と捉えていた

佐藤宣P

 Facebookでの「いいね!」の増え方や、コメントの数で盛り上がりは明確でしたが、それがヒットに直結するかどうかは全く確信が持てませんでした。日本でもテディベア自体の認知度は高く、特に女性に圧倒的な人気を誇るくまキャラクターが数多く存在することから、テッドのキャラクターの魅力さえウケれば、キャラ認知が広まることはある程度予測の範囲内でした。
こうしたことから、「クマキャラ」を求めて「いいね!」ボタンを押す女性の反応と、実際の動員予測とは切り離して考えており、「このフォロワーたちは単純にテッドのキャラに受けているだけで、劇場に足を運ぶことはないのではないか?」という不安は公開するまで拭えませんでした。

西埜室長

 ソーシャルメディアでは成功していない作品であっても興行的に成功している作品もあるので、Facebookなどでの「兆候」もまた結果論だと思います。単純に「いいね!」の数を増やすだけなら、広告を打つなどいくらでも手はあります。また、仮に「いいね!」ボタンを押した人が10万人いたとして、その10万人全員が劇場に足を運んだとしても、興行収入に置き換えると1億円超程度にしかならないので、ソーシャルでの数字を興収予測に結び付けるのはなかなか難しい部分があります。
宣伝という観点からいえば、ソーシャルメディアにアカウントを作るのはコストパフォーマンスに優れているからです。ネットのバナー広告に費用を投じるよりは、ソーシャルメディアを使って少ないコストで宣伝を展開しつつ、宣伝費は実績のあるメディアバイに投下するという方法は1つの戦略としてはありなのだと思います。

ネットでの“テッド”の「活躍」について

キャラクターのもつ瞬発力・爆発力が活きた

佐藤宣P

 Facebook で18万「いいね!」突破という、劇場映画としては圧倒的な支持を獲得したことが注目されがちですが、この数値は大きなウェブ全体の盛り上がりの氷山の一角でしかありません。実際、Facebookだけでなくtwitterも過去の映画作品とは比較にならないほどの拡散を見せていましたし、単純に公式サイトのアクセス数は1日平均10万アクセス以上という“異常値”を出していました。
要は、「一言で魅力を説明できる」テッドのキャラクターがもつ瞬発力・爆発力が非常にウェブ向きであり、分かりやすい数字としてFacebookの「いいね!」数が挙げられる、ということでしかないと思います。
キャラの“強さ”を抜きにFacebookの数字を上げることに注力してしまうのは、ある意味危険なことのように思います。逆にそのキャラが日本人に受け入れられ、魅力的に見えているのであれば自然と数字はついてくるものだと考えています。
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