本コラムは①公開前の戦略と各種データからの「手応え」からの続きです。
【『テッド』ヒットの要因は?】
「作品力」と「働いてくれるキャラクター」
①不可欠な要素としての「作品力」
西埜室長
ヒットを牽引するのは、「作品力」が絶対不可欠な要素だと感じています。「意外な大ヒット」が出るたびに、「なぜだろう? どうやったのだろう?」と考えがちですし、様々な立場からいろいろなことが語られます。しかし突き詰めると作品の力、その映画が「受け入れられる内容だった」ということだと思います。
その上で、宣伝する側のスタンスとして、「そのプロダクトにどれだけ注力するか」ということが影響してくると思います。当然、会社的には興行収入目標も公開規模も圧倒的に大規模な『レ・ミゼラブル』の優先度が高く、総力を上げていましたので、宣伝期間が重なった『テッド』の場合は佐藤宣Pにかなり負荷が掛かったと思います。
宣伝マンは、これまでやっていなかった宣伝方法を常に模索しているものです。ある映画が当たれば、そこから方程式を見つけ出そうというふうになりがちです。しかし、それはヒットの本質を見誤る可能性が、少なからずあると思います。たとえば今回Facebookの反応は確かに良かったが、これをうまく使いこなせればヒットするという結論を導き出すのは危険かも知れません。
②予算規模を超えたテッドの訴求力・スター顔負けの注目度
佐藤宣P
宣伝を通して、『テッド』は、自分でパブリシティ露出を決めてくる有能な宣伝マン、「デキるクマ」だった、と感じています。マスコミ関係者の皆様も、多くの方が、我々がテッドを売り込んだ瞬間に「可愛い!」「面白い!」と気に入っていただき、率先してテッドの情報を発信してくれました。
今回、特にテレビではびっくりするほど多くの作品紹介・特集が組まれましたし、普段映画の情報を扱わないような雑誌などでも紹介していただきました。友達や知り合いに何かを薦める際もそうだと思いますが、やはり本人の「伝えたい」というテンションが高くなければなかなか情報は伝わらないものだと思います。
情報の発信力があるマスコミの方々の多くが『テッド』に惚れこんで、積極的に世の中に広めてくれたのは本当に幸せなことですし、それほどまで人の心を動かすキャラクターを生み出した監督が凄かったと思います。特に『テッド』は広告費の大量投下が出来るような大作レベルではない、絞った宣伝予算での展開でしたので、パブリシティの面で多くの露出を獲得できたことは非常に大きかったです。
今回はキャストや監督の来日もありませんでしたが、その代わりに『テッド』の等身大ぬいぐるみをフル稼働させて、TV番組や雑誌のインタビューなどに「出演」してもらいました。彼らは、テッドのキャラクターがすでに業界内で話題になっていたこともあり、各方面で愚痴一つこぼさず(ぬいぐるみなので)精力的にプロモーション活動をこなしていただき、来日スター顔負けの働きをしてくれました。プロモーションで、吹替えの声を演じた有吉弘行さんとローラさんが取材を受ける際にも、常にテッドのぬいぐるみと一緒に出演してもらうことで、単なるイベント紹介に終わらない「映画に落ちる」露出が出来たと思います。もし、監督がそこまで見越してテディベアを主人公にしたのであれば、それはもう賛辞を贈るほかないです。
③業界関係者・一般映画鑑賞者問わず高い作品満足度
佐藤宣P
メディア関係者向け試写後、マスコミの反応が非常に良かったという点も大きいと思います。ただの設定が面白いキャラクターものは過去にも数多くありますが、テッドの場合は80年代のサブカルチャーが随所にちりばめられ、更にラストにはまさかの「感動」というサプライズが仕込まれているので、見た人は意外な不意打ちを食らうことになります。可愛いだけの映画に終わらず、かといってサブカルに寄り過ぎず、絶妙なバランスを保った作品のクオリティの高さが、これだけ多くの支持を獲得できた要因のように思います。
マスコミの反応と同じく公開後の観客の満足度も非常に高く、公開後4週間連続ほぼ同じ興行成績で推移するという異例の興行収入の推移を見せた要因として、口コミの拡散という要素も見過ごせないと思います。キャラクターの面白さと、作品の完成度の高さ、このどちらかが欠けても今回の成績にはならなかったのではないでしょうか。
【では、宣伝・配給会社の役割は?】
「世の中の人は『映画』を求めているわけではない」ことを前提に、
「映画」に閉じない、作品の「刺さる魅力」を伝えていくこと
西埜室長
配給会社の宣伝担当の仕事は、作品を預かり、それを魅力的に観客に伝えること。それに尽きますが、その伝え方を考える際には、「世の中の人は映画なんか見ない」ということをいつも前提に置いて考えるようにしています。「世の中の人は映画を見る」という前提ならば我々は必要ありませんが、映画が人々にとって数多くの娯楽のオプションの一つでしかないとしたら、やるべき事がたくさんあるかと思います。
佐藤宣P
『テッド』の場合も、ライバルは同時期公開の映画ではなく、日本で圧倒的人気者の地位を築いている“くまキャラ”たちと考えていました。ご覧いただいた方には分かると思うのですが、『テッド』には映画ファンに響く要素がたくさんあります。しかし、それをそのまま前面に押し出していたら『テッド』はここまで多くの日本人の心を捉えることは出来ず、過去のアメリカンコメディと同じような興行収入に終わっていた可能性も十分にあると思います。
今回、我々は「脱・アメリカンコメディ映画」という目標に向けてとにかく、過去のアメリカンコメディ映画とは異なる見せ方を心がけてきました。それはつまり、この作品最大のオリジナリティである、『テッド』のキャラクターの面白さを如何に魅力的に伝えられるか、ということでした。
宣伝をしていく上で常に心がけたのは元々ポテンシャルが高い『テッド』のキャラクターを、如何に日本人向けにカスタムするか(本来の魅力を損なわない程度に)という部分であり、それは個人的な感覚ではなく多くの人の反応や意見を参考にして形成していきました。リアルタイムでフォロワーの反応が分かるソーシャルメディアなどのツールは、その場面で有効に機能した、といえます。
そういう意味では、『テッド』は日本の皆さんに育てて頂いたキャラクターでもあり、我々宣伝に携わる者はその感謝の念を忘れてはいけないと思います。
【インタビューを終えて】
ヒットには作品力が不可欠というのが、お二人の考えのベースにあるようです。
たしかに、ゼロになにを掛けてもゼロにしかならないように、「そもそも作品がどの程度力を持っているか?」ということはキーファクターです。しかし100に1を掛けても100のままだけれど、10を掛ければ1000になるということもあると思うのです。
お話をうかがって感じたことは、『テッド』がこれだけ大きくヒットした要因は、お二人が作品を生み出すクリエイターとそれを受け止める観客に、畏敬の念を持って宣伝に臨まれたからではないかと思います。その哲学がベースにあったからこそ、『テッド』は自由に解き放たれ、どんどん勝手に世の中の女性をナンパしていった!その結果がこのヒットなのではないかと思うのです。
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佐藤宣伝プロデューサーの次回作は、『ワイルド・スピード EURO MISSION』、西埜室長はすべての作品に携わる傍ら、『オブリビオン』『ワールド・ウォーZ』をメインで担当なさるそうです。映連の洋画興行低調の発表を吹き飛ばすかのような、東宝東和の『レ・ミゼラブル』『テッド』快進撃に続くヒットとなることに期待です。
また、インタビュー後、映画のマーケティングデータについてもご意見を頂戴しました。マーケティングデータを使う目的は、「興行収入ポテンシャルを測り、宣伝戦略決定・変更の指針とすること」とのこと。残念ながら弊社は、『テッド』については公開前に詳細なトラッキングデータ分析を直接提供する立場にはありませんでした。どんな作品もヒットに向かって宣伝をする中、マーケティングデータによってどう貢献すべきなのか、「ヒット」の兆候はどう考えるべきなのか。これらの論点をこのコラムでまとめていきたいと思います。
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↓こちらも併せてご覧ください↓
①公開前の戦略と各種データからの「手応え」(本コラムの前篇)
「テッド」大ヒット:中規模洋画としては異例の宣伝展開が功を奏した大成功
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