テレビでの映画宣伝と興行収入:邦画VS洋画


はじめに

映画の「ヒット」の定義は難しいですが、興行収入は多ければ多い方がいい。そのためには多くの人にその作品を知ってもらう、つまり認知度が高い状態を作るのが重要です。そして認知を上げるうえでいまでも圧倒的な影響力を持っているのは、テレビにおけるCM・パブ露出です。

先日発表された2012年の年間興収データからも、「邦高洋低」の傾向が進んでいることがわかります。(詳しくは「2012年の年間興行収入データを深掘り」分析をご覧ください)

では、邦画と洋画では、テレビにおける宣伝はどのように異なるのか。テレビ露出量と興収の関係は?テレビ局によって映画の露出のあり方は異なるのか?これらの点につき各種データを使い、2つのコラムにわたってまとめました。
(コラム中の資料は、最近大学などで映画・メディア関連の講義でお話させて頂いた際に使用したものです)

概要

テレビにおける宣伝の違い 邦画VS洋画
1) 映画の認知度と興行収入の関係
2) 映画の情報入手経路
3) テレビCMと番組内露出量のシェア分析
4) テレビ露出量と週末興収の関係

1)映画の認知度と興行収入の関係

認知が低いと始まらないが、高ければいいというわけではない

映画宣伝の大事な指標の一つ、認知度と興行収入はそもそもどういう関係にあるのか。2012年に公開された作品につき、”公開時の作品認知度と公開週末土日興収の関係”を整理したのが下記の図です。

【図1】認知度と映画の週末土日興行収入

【図1】認知度と映画の週末土日興行収入

横軸が、それぞれの作品の公開週における認知率です。図で右に行くほど、その題名を知っている人が多いということを示しています。縦軸は公開週末土日の興収で、上に行くほど、公開週末土日の興収が高かった、多くの方に見て頂いたということを示しています。

この図をみると、認知度が低いけれど興収が高い(左上のゾーン)には作品がありません。どんなに良い映画であっても、知らなければ見に行けない、動員が増えない。

一方で、認知度が高いけれど興収が低かった作品も多く(右下のゾーン)認知されればヒットするというわけではない。お金あるいは手間ひまかけたとしても動員につながるかどうかは、ケースバイケースということが現れています。

2)映画の情報入手経路

やはり、テレビ

冒頭でも少し触れましたが、認知を上げる際に最も大きな影響力を持っているのは、テレビにおけるCM・パブ露出です。

以下の図2は、どの情報源で映画を知ったか(認知したか)を映画の公開時に聞いた結果をまとめたものです。全国規模で公開された作品の代表として、邦画は「のぼうの城」、洋画は「007 スカイフォール」の公開時点でのデータを使っています。

【図2】映画の情報入手経路(どの媒体で映画の情報を得たか)

【図2】映画の情報入手経路(どの媒体で映画の情報を得たか)

オレンジ色のラインで強調しているのは、テレビにおけるCM・パブ露出です。この図をみると、邦画も、洋画も、TVで情報を得る人が圧倒的に多いということがわかります。よほど極端な予算配分をしない限り、全国規模で公開される作品は同様の結果になっています。

3)テレビCMと番組内露出量のシェア分析

CMは洋画、番組内露出は邦画

情報番組をはじめとするテレビ番組やテレビCMで、邦画洋画はそれぞれどのように展開しているのか。それを具体的に示しているのが図3です。

【図3】テレビCMと番組内露出量のシェア分析

【図3】テレビCMと番組内露出量のシェア分析

左にある二つの円グラフは、週ごとの全体TV露出の中で、映画関連だけを取り出して作品別に露出量内訳をみたものです。上の段がCM、下の段が番組内露出です。

右にある二つの円グラフは、2011年12月~2012年11月の期間中での、邦画洋画のTV露出量内訳です。同じく上がTVCMで下がTV番組(パブ)です。赤色が邦画で青色が洋画を示しています。

TVCMでは洋画の露出量が多いです。「ホビット」「レ・ミゼラブル」「007」で一週間のTVCM露出の半分以上を占めています。

一方、TV番組では邦画の露出量が多いです。「今日、恋をはじめます」と「妖怪人間ベム」で一週間のTV番組露出の半分以上を占めています。

4)テレビ露出量と週末興収の関係

興行収入の相関度合いは、CM、番組内露出とも洋画のほうが高い。

以下の図4は、横軸に公開12週前から公開日までの間のTV露出量、縦軸に公開週末土日興収をとっています。左がテレビCM、右がテレビ番組露出です。これまでと同じく、赤が邦画、青が洋画です。

【図4】テレビ露出量と週末土日興収

【図4】テレビ露出量と週末土日興収

ここで注目して頂きたいのは、露出量と週末興収がどのくらい相関しているかを示す相関係数の値です。値が「1」に近付くほど、露出量と週末興収の相関が高いということを示しています。

ここでみて明らかなとおり、邦画は0に近く、ほぼ相関がないと言う結果です。つまり邦画は、テレビCMも番組内露出も、出た分だけ興収に結びつくとは限らないという状況にあることがわかります。一方の洋画は、1に近い訳ではないですが、明らかに邦画より数値が高めで、テレビの露出量と興行収入がより相関しているのです。

露出があればもちろん認知は上がります。しかし、お客さんが見たいという「意欲」「動員」のポテンシャルがなくても、テレビ露出が先行するというケースがあるということです。

◆ ◆ ◆

考察

このようにテレビによって宣伝の大きな一つのミッションである認知を上げるために、洋画も邦画もそれぞれ策を練っています。そのなかで、「劇場での予告編展開を頑張って、最後はテレビで認知をあげる」という構造はほとんど同じです。しかし洋画と邦画は関与者もビジネスモデルも全く違うため、それぞれの苦しさがあります。

邦画も大変?

邦画はキャストの稼働があるからテレビ露出、認知を稼げるアドバンテージがある、というわけですが、それはそれで大変な面もありそうです。というのも、邦画は目標に対して露出の出方がコントロールしにくいのではないかと、と映るからです。

ポテンシャルがあってもなくても露出があったということは、ポテンシャルがあっても露出がないケースもありそうです。キャストが稼働してテレビ番組に出演すれば露出があるわけですが、稼働しない方もいるでしょう。そういう場合だけ予算を増やしてCMを打つ、ということにもなりにくそうです。

となると、一本一本で考えれば、事前にポテンシャルを見極めてかけるべき予算を決める、よりロジックで宣伝ができている洋画は「やりやすい」とも見えます。

一方で、コントロールが難しいのであれば作品ごとに露出を最適化するという考えは捨てて、ポテンシャルや目標に関係なくすべて一定量以上の露出を目指すよう体制をとる、という方が作品ラインナップ全体では最適化されているのかもしれません。

なぜなら、ほかの作品でも同じような顔ぶれで委員会を組成されていて、持ちつ持たれつの関係があるからです。興行ポテンシャルに見合わない大量の露出が出て、結果的にはそう大きな興行収入にはならなかったとします。その場合、委員会の関係者は、なんとなく恩義を感じる。そうしたら次の座組では尽くしてくれた宣伝の人のために(また興行収入目標とは関係なく)様々な形で「お返し」をするでしょう。

テレビ露出は大事、でもコントロールが必ずしも効かない。それならば作品別の最適化をしないことで、宣伝をリードする会社としては全体の最適化がはかられている側面もあるのではないでしょうか。

洋画の突破口?

洋画は、邦画とは大きく違うやり方をすることに、洋画「復活」の鍵がありそうだと考えました。洋画のテレビ露出量・認知は邦画にかないません。洋画も50億や100億のメガヒットを狙うならもちろんテレビによる露出が重要ですが、100スクリーン規模の作品でテレビCMを打つことにどのぐらい意味があるのでしょうか?

一方で劇場鑑賞頻度が高い、いわゆる映画の「ヘビー層」が一番のお客さんなのであれば、例えば一つの会社が、劇場の予告編と劇場近辺の屋外広告など地域密着型の広告枠をすべて押さえたら効率的ではないでしょうか。配給会社はブッキングした劇場近隣内だけで徹底的に地域マーケティングをやって、あとはネットで効率的にチケットを買うところまでの導線を引く、なんていうことを思い切ってやったらどうなるのでしょうか?

最後に

そもそも、洋画VS邦画の興行収入は、面白い映画があれば、あるいはなくなってきたら、オセロはまたいくらでもひっくり返り得ると思うのです。しかし、宣伝の仕組み、インフラのあり方を変えていくことで邦画の更なる躍進、洋画の「復活」、ひいては映画全体の拡大がありえるのではないかと思います。

学生さん向けに映画の宣伝と業界を俯瞰する内容を、データをもとに話すために準備した講義資料ではありましたが、まとめていくうちに妄想が止まらなくなりました。

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▼本コラムの後篇となるコラムも公開中です

【テレビ局別の映画宣伝量と自社出資作品の割合】
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【テレビでの映画宣伝と興行収入:邦画VS洋画】
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