(2015年4月ロサンゼルスにて開催されたVariety誌主催のカンファレンスメインイベントの一つ、”The Masters”というセッションレポートの続きです。パネリストはハリウッドメジャー各社のマーケティング問の幹部で、顔ぶれはこちら)
本セッション後半では、映画マーケティング戦略を立てるうえで対応すべき変化がトピックとなった。
議論の中心は、10代を中心とした若者に対して、どのように劇場での映画鑑賞を訴求するかということであった。
10代を中心とした若者と映画館の今
現状についてまず20世紀フォックスのワインストック氏が「アメリカ映画業界にとって若い観客を集めることは、今までになく難しくなっている。この場合の「若い」というのは幼い子どもではなく、8~12歳ごろの就学児や10代のことである。彼らには他にたくさんの選択肢があって、彼らの親が必要としていたほど映画を必要としていないのだ。」と語った。
またRelativityのコルティン氏も、若者を映画館に呼び込むことが難しくなっていることに関連して「映画館では座席が大きく豪華になったり、アルコールを飲めるようになったりする中で、映画館のチケット単価も観客層の年齢も上がっている。」と指摘。
コルティン氏は、若者が最も長い時間触れるメディアである携帯電話においては、(予告編などの動画視聴までの)ロード時間がかかる問題は深刻であるという点も指摘した。たとえば「ウエブだろうとアプリだろうと見るまでに3秒以上かかったら終わりで、こういった問題は技術者とよく話し合って解決していかねばならない」とした。
モデレーターのクラウディア・エラー氏は「(自分の娘を含め)若者は携帯電話を一時も手放さないが、映画館は携帯の電源を絶対に切らねばならない数少ない場所である。」とし、改めてどのように映画館に若者を呼び込めるだろうかを問いかけたところ、パネリストの一人からの「映画館で携帯充電サービスを提供すればよい」という冗談が会場を沸かせてから必要な対応について議論がスタートした。
普遍的なこと「誰かにとって事件であること」を具体的に実現する難しさ
ワインストック氏は、若者に限らず、誰かを劇場に呼び込むうえでは、今も昔も変わらない普遍的な要素として、「映画は『事件』にならねばならない。ターゲット層がどの年代であれ、『事件』になれば、人々はその話題に触れて会話の参加者になりたくなる。今日でも人間の性質として、人はみんなが話している話題に関与したいものだ。『事件化』のために、特に若者において重要なのは、訴求していることが大きなスクリーンでしか体験できないものだという確証を持たせることだ。」とした。
「事件」については、パラマウントのクーリガン氏が、「とにかく、特定の誰かにとって事件にならねばならない。多くの人にとって『それなり』だけど、どの特定のグループにとっても重要ではない状態におちいると、結果が出ない」と付言した。
若者は映画の良さに気付く?
ではどのように若者にとっての事件となるのかについては、ディズニーのストラウス氏は「若者が日常的に接触するプラットフォームに映画が登場しなければならない。その中では30秒のTVスポットに限らず、動画コンテンツが重要になっている」とした。これについては予告編の解禁・プレミアがマーケティング施策の中で最も重要なことになっていることに話題が及んだ。
一方で若者に関する議論については、コルティン氏が若者がグループで行動をすることに着目しているとコメント(「グループのうちの一人にメッセージが届けば、その一人がグループ内の他の4人に伝えてくれること、この特徴に注目している」)したり、10代を動員した成功例として”Fault in our stars” (邦題:『きっと、星のせいじゃない。』)などの事例が挙げられる以外は、若者動員に向けた具体策というより、今も昔も変わらず、映画マーケティングにおいて重要な「誰かにとって事件になること」ということとともに、「10代の人々にとって、映画は特別なものにならねばならない」というコメントが多かった。
たとえば、ストラウス氏は「これらの子どもたちは、あと数年で大学へ入るだろう。そのとき彼らはデートをするようになり、どこかでかける場所が必要になる。だからこそ、10代の若者が今の段階で、映画館で映画を観ることは特別なものであり、ただリビングルームで過ごすことや、みんなで外をぶらつくこととは全く異なる体験だと、理解していることは非常に重要」とした。
これに対してコルティン氏は、「どうして若者がそういう理解をするといえるのか?なぜそのような態度変容が起こるといえるのか?」と問いただした。そして「若者は4インチの携帯画面で映画を含めて長時間動画を見ることに慣れている。こういった若者を呼び込むうえでは、映画館で映画を観る体験がどう特別なのかを示す必要があるが、このことは本当に難しい(“that’s the holy grail=(探求しても)絶対達成できない理想、見果てぬ夢”。」と続けた。
ユニバーサルのゴールドスタイン氏は、「(コルティン氏が言うように)人々の鑑賞方法は多様化しているだろうが、とにかく、劇場で映画を観る体験は非日常的な体験でなければならないということである。本物の感情を動かされるような体験であるという大きさと広がりを持っていなければならない。」とコメントした。
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上記の議論からは、映画マーケティングにおいて普遍的に重要なことは若者動員においても変化がないながら、それを実現する具体策については各社模索中という印象を受けた。
次回は、セッションの最後の部分において、若者以外の年齢層の動向、そして、この変化の激しい時代に映画マーケティングを担当することをどのようにとらえているかなどの議論について取り上げる。
市場の変化に対応する(2/2)に続く
ハリウッドマーケティングリーダーの本音
(1)「素晴らしい映画マーケティングの条件とは」
(2)「ソーシャルメディアの存在感と影響力」
(3)「小規模公開映画の宣伝手法」
(4)「映画タイトルの重要性と成功事例」
(5)「伝統的なトラッキングデータ VS ソーシャルメディアデータ」
(6)「若者を映画館にどう動員するか~市場の変化に対応する(1/2)~」
(7)「「満たされていない観客層」としての中高年~市場の変化に対応する(2/2)~」
(8)「今こそ映画マーケティングが面白い」