(2015年4月ロサンゼルスにて開催されたVariety誌主催のカンファレンスメインイベントの一つ、”The Masters”というセッションレポートの続きです。パネリストはハリウッドメジャー各社のマーケティング問の幹部で、顔ぶれはこちら)
前回レポートした「若い年齢層をどう映画館に動員するか」という議論の流れで、若者獲得が難しくなっている一方で「中高年」作品のヒットが増えてきていること、ベビーブーム世代以降も映画マーケティングにおいて重要な観客層であるとの指摘がなされた。
「満たされていない顧客層」に価値を提供する
各々から『リンカーン』『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』や『マダム・マロリーと魔法のスパイス』などの作品が「ベビーブーム世代」より上の年配層の「事件」として多くの観客を動員して成功した事例が挙がったのに続き、20世紀フォックスのワインストック氏が「観客における35歳以上の割合が増えている」と指摘。
また、ユニバーサルのゴールドスタイン氏は、こういった年配の観客層を中心にしたヒットの背景には、その年代層が観たかったテーマの作品が供給されたということもあり、市場には「ニーズが満たされていない観客層」が必ず存在していることの理解が重要と指摘した。例として、アメリカで3.5億ドルの興行収入となった『アメリカン・スナイパー』の事例が挙げられ、こういった物語に惹きつけられる人々、世代が市場内に存在していたことが映画のヒットを通じて実感したとコメントした。
これらのコメントを受けて、モデレーターのVariety誌の共同編集長のクラウディア・エラー氏から、劇場において中高年以上の観客層が増えている要因として、この顧客のニーズに合う供給がなされたということだけでなく、そもそもこの年代は映画鑑賞が好きな世代であるとの指摘があった。
「毎週土曜日の夜のロサンゼルスにある映画館は大人たちでいっぱい。彼らは出かけて人々と交流することが大好きだ。友達や親せきに出かけたときにばったり会うことが楽しいのだ。こういった経験は自宅ではできないことであり、高い年代層の観客はこういったことに価値を感じていて、映画を観に外へ出かけたくなる世代なのだ。そしてここで話題になったように、この年代に訴求する素晴らしい映画の供給は全く足りていなかったが、この層に訴求できる作品が増えているということは、ハリウッドがようやく『そういえば、大人たちこそ、映画を観に行くのが好きなんだ!』ということに気付いたということだ」
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そもそも、残りの人生の長さ(つまり今後の顧客あたりの生涯価値のポテンシャル)からすれば、若い人を獲得することのほうが未来の市場拡大に直結することもあって、若い人に観てほしいと考える作り手や届け手が多いと思う。
このセッション中の若者の獲得の難しさに続く議論から、まだまだアメリカでは映画=若者というとらえ方が非常に強い中で、最近、映画観客層としての中高年へ注目が集まってきているという構図が様子がうかがえた。
若者が重要という発想はもちろん日本の映画ビジネス事業者の中にもあると感じるが、日本においては人口構成の変化も相まって、シニアをメイン顧客に据えた作品の供給とヒットがもう少し前から増加傾向にある状況にあると考える(2009年『沈まぬ太陽』『劔岳 点の記』、2011年『武士の家計簿』2012年『あなたへ』)。この点で日本とアメリカの状況は対照的という印象を受けた。
ハリウッドと日本では様々な要因から映画製作・宣伝・興行の在り方が異なるが、人口ピラミッドの形の違いは益々今後大きな要素になるといえるのではないか(世界、アメリカ、日本の人口ピラミッドの比較はこちら)
また、「満たされていない観客層」を捉えるというのは、中高年以上に限らず、すべての年代、すべての作品マーケティング戦略において重要なことであり、このことが指摘されるということはいかにアメリカにおいては、若者映画が供給過多、中高年映画が供給過小という状況だったかということの裏返しと考えられる。この辺りも日本においてハリウッド映画が相対的に動員数が減少している要因の一つと考えられるのではないか。
ハリウッドマーケティングリーダーの本音
(1)「素晴らしい映画マーケティングの条件とは」
(2)「ソーシャルメディアの存在感と影響力」
(3)「小規模公開映画の宣伝手法」
(4)「映画タイトルの重要性と成功事例」
(5)「伝統的なトラッキングデータ VS ソーシャルメディアデータ」
(6)「若者を映画館にどう動員するか~市場の変化に対応する(1/2)~」
(7)「「満たされていない観客層」としての中高年~市場の変化に対応する(2/2)~」
(8)「今こそ映画マーケティングが面白い」